遺産相続で特別代理人の選任が必要な2つのケースと選任の流れを解説

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遺産相続で特別代理人の選任が必要な2つのケースと選任の流れを解説

遺産相続では相続人どうしの協議(遺産分割協議)が必要になる場合があります。
相続人が未成年の場合や認知症などで意思表示ができない場合は、特別代理人を立てて協議をしなければなりません。

この記事では、遺産相続で特別代理人の選任が必要になる2つのケースと、選任手続きの流れについて詳しく解説します。相続人に特別代理人を立てなければならないと聞いてお困りの方は、ぜひ参考にしてください。

1.特別代理人は指定された手続きを代行

特別代理人とは、家庭裁判所で決められた手続きのために特別に選任される代理人のことです。未成年者の親権者や成年後見人とは異なり、決められた手続き以外の代理はできません。また、決められた手続きが終われば任務は終了します。

遺産相続では、遺産分割協議への参加、遺産分割協議書への署名・押印、相続登記や預金引き出しなどの相続手続きを代理して行います。

特別代理人は、相続の当事者でない成人であれば誰でもなることができます。
弁護士などの資格は必要ありません。
相続の内容や家庭の事情を知られるため、できれば親族に依頼するほうがよいでしょう。

ただし、特別代理人の候補として届け出た人が適任でない場合は、家庭裁判所によって弁護士や司法書士などの専門家が選任されます。

2.遺産相続で特別代理人選任が必要になるケース

遺産相続では、次のような場合に特別代理人を選任する必要があります。

  • 未成年者と親がともに相続人になるケース
  • 認知症の人と成年後見人がともに相続人になるケース

この章では、それぞれのケースについて特別代理人が必要になる理由や注意点などをお伝えします。

2-1.未成年者と親がともに相続人になるケース

未成年者とその親がともに相続人になる場合は、未成年者に特別代理人を選任する必要があります。

通常、未成年者の代理人は親権者が務めますが、親と子が遺産を分け合う状況で親が代理人になると、親と子で利益が相反して子の権利が侵害される恐れがあるからです。

たとえば、父が死亡して母と未成年の子が相続人になる場合では、子に特別代理人を選任します(図の例1)。

両親がすでに死亡している場合など未成年後見人がいて、未成年者と利益が相反するときも特別代理人の選任が必要です。たとえば、祖母が死亡して未成年後見人である祖父と未成年の子が相続人になる場合では、子に特別代理人を立てる必要があります(図の例2)。

【例1】母と未成年の子で遺産を分け合う場合【例2】未成年後見人と未成年者で遺産を分け合う場合

なお、1人の人が兄弟姉妹など2人以上の未成年者の特別代理人になることはできません。
兄弟姉妹どうしで利益が相反するからです。
未成年の相続人が複数いる場合は、その人数に応じて特別代理人を選任しなければなりません。

2-1-1.相続人でなければ代理人になれる

未成年の相続人に特別代理人が必要になるのは、あくまでも親権者が同じ相続の相続人になっていて利益が相反する場合です。同じ相続の相続人になっていなければ親権者は代理人になることができ、特別代理人を立てる必要はありません。

たとえば、父がすでに死亡していて、未成年の子が父方の祖母の相続人になる場合は、特別代理人を選任する必要はありません(図の例3)。母は父方の祖母と血のつながりがないため相続人にはならず、母と子の利益は相反しないため、母は子供の代理人になることができます。

【例3】母は相続人でない場合

2-2.認知症の人と成年後見人がともに相続人になるケース

認知症などにより法定後見制度のもとで後見されている人(成年被後見人)と成年後見人がともに相続人になる場合は、成年被後見人に特別代理人を選任する必要があります。
未成年者と親の場合と同じく、成年被後見人と成年後見人で利益が相反するからです。

ただし、成年後見人を監督する成年後見監督人がいれば、改めて特別代理人を立てる必要はありません。

認知症の人と成年後見人がともに相続人になる場合

3.特別代理人選任の流れ

未成年者や成年被後見人である相続人がいる場合は、特別代理人を選任してはじめて遺産相続の手続きができるようになります。そのため、なるべく早く特別代理人を選任することが大切です。

この章では、特別代理人の選任手続きの流れをご紹介します。

3-1.特別代理人選任は家庭裁判所に申し立てる

特別代理人を選任するには、未成年者または成年被後見人である相続人の住所を管轄する家庭裁判所で申し立てをします。(参考:裁判所の管轄区域

申し立てには次の書類等が必要です。
申し立てができるのは、親権者(未成年後見人も含む)、成年後見人や利害関係者です。

3-2.申し立てには遺産分割協議書の案が必要

特別代理人選任の申し立てをするには、遺産分割協議書の案を作成しておく必要があります。

家庭裁判所は、遺産分割協議書の内容をもとに特別代理人選任の申し立てを受理するかどうかを判断します。遺産分割協議書の内容が未成年者や成年被後見人である相続人にとって不利なものであれば、申し立てが受理されない可能性があります。

申し立てを受理してもらうためには、未成年者や成年被後見人である相続人に少なくとも法定相続分を相続させることが理想です。ただし、現物の不動産を分割できない場合があるほか、未成年者を養育するために親権者が財産をまとめて相続した方がよい場合もあるでしょう。

このような場合は、遺産分割協議書や特別代理人選任申立書に「子の養育費に充てるため便宜的に親権者に遺産を相続させる」などと明記しておくとよいでしょう。相続人に不利な内容ではないことを示しておけば、家庭裁判所に受理されやすくなります。

遺産分割協議書の書き方については、「遺産分割協議書の書き方【決定版】ひな形をダウンロードして完全解説!」を参照してください。特別代理人の選任が必要な場合の書式サンプルも掲載しています。

特別代理人を選任する場合の遺産分割協議書は、相続人の署名と押印の方法が通常とは異なります。相続人の氏名に続いて、誰の特別代理人であるかを明記したうえで特別代理人が氏名を記入し、実印を押印します。

特別代理人を選任する場合の遺産分割協議書の署名・押印例

特別代理人を選任する場合の遺産分割協議書の署名・押印例

4.適任者がいない場合は信頼できる専門家に相談

ここまで、遺産相続で特別代理人の選任が必要になる2つのケースと、特別代理人選任手続きの流れについてお伝えしました。

遺産相続では、未成年者や成年被後見人が相続人になっていて、本来代理人となるべき親権者や成年後見人もともに相続人となっている場合に、特別代理人の選任が必要です。

特別代理人には特別な資格が必要ないため親戚などに依頼することが多いですが、候補者が適任でない場合は家庭裁判所によって選任されることもあります。特別代理人になってもらえるような親戚などがいない場合は、信頼できる司法書士や弁護士などの専門家を探して依頼することをお勧めします。

家庭裁判所によって選任される特別代理人はこちらでは関与できないため、ご自身と相性の合わないなどの問題が発生することもあるためです。
ご自身で予め信頼できる専門家を見つけておけば、選任申立て手続きから代理人としての役割まで全て安心してお任せすることができます。

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