遺産の使い込み発覚後すぐにとるべき対処法と使い込みを防ぐ方法

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遺産の使い込み発覚後すぐにとるべき対処法と使い込みを防ぐ方法

遺産の使い込みに気づいたときには、まず証拠となるべき資料を集め、財産を取り戻すための手続きをとります。遺産が使い込まれているケースでは、相続人同士の話し合いで円満解決することは簡単ではありません。訴訟も見据えて証拠を集めることが重要になってきます。その後、専門家への依頼も視野に入れて話し合いや手続きを進めましょう。

遺産の使い込みがわかったときの手続きの流れ

▲遺産の使い込みがわかったときの手続きの流れ

生前から遺産の使い込みが疑われるケースも増えています。たとえば、同居している家族が、判断能力の低下した親の預金を勝手に引き出しているときなどです。後見制度や家族信託について理解しておけば、使い込みを防ぐ対策が可能。

1.遺産の使い込みがわかったときのファーストステップは証拠集め

遺産の使い込みが発覚したとき、まず行うべきなのは証拠の確保です。証拠を押さえられるかどうかで、使われてしまった遺産を取り戻せるかどうかが大きく左右されます。訴訟になる可能性も高いので、早めに証拠をつかんでおくことが大切です。

1-1.亡くなった人が使っていた金融機関に照会をかけて取引履歴を取得する

まずは、被相続人が使っていた金融機関に照会をかけてみましょう。亡くなる前後の取引履歴を取得することで、使い込まれた時期や金額を特定できます。

金融機関に照会をかけるためには、自分が相続人であることを証明する必要があります。被相続人の亡くなった記載のある戸籍、自分と被相続人との関係がわかる戸籍を用意しておきましょう。

戸籍は、本籍地のある市区町村役場で取得することが可能です。窓口に行けないときは、郵送でも取り寄せ可能です。

その他、請求者本人の印鑑証明書など、金融機関によって追加書類が必要になることもあるので事前に確認しましょう。必要書類が揃ったら、金融機関の窓口で手続きをします。

1-2.個人で調べることに限界を感じたら弁護士に調査を依頼

証拠集めがうまくいかない場合は、弁護士に調査を依頼しましょう。

弁護士は、弁護士照会制度とよばれる調査手続きが特別に認められています。弁護士照会制度とは、所属する弁護士会経由で各種機関に対して照会を行う手続きのことです。そのため、個人で調査するよりも信頼性が高まります。

個人情報を保護するため、金融機関や保険会社によっては、求めている取引履歴をなかなか出してくれないところもあります。そんなとき、弁護士に調査を依頼すると、各種機関が情報の開示に応じる可能性は高くなるでしょう。

1-3.最終手段として、裁判所に調査してもらえることもある

裁判所が職権で財産調査をしてくれることもあります。裁判所は、判決を下すために必要な範囲で、自ら財産を調べることができます。たとえば、相続財産の範囲を確定するために遺産確認の訴えを起こした場合、裁判所自ら調査をしてくれることがあります。

弁護士に依頼したとしても、遺産を使い込んだ相手方の取引履歴まで取得することは困難です。しかし、裁判所が調査すると、弁護士でも調査することのできない詳しい証拠収集が可能となります。

ただし、これはあくまで最終手段です。いきなり裁判を起こすと、相続争いを引き起こす可能性が高くなり、家族との関係が険悪になる可能性が高まります。また、裁判には弁護士費用も含めて数十万円以上の費用がかかります。

まずは自分で調査し、限界を感じた場合は弁護士に相談してみましょう。それでも上手くいかない場合には、裁判を起こして職権調査をしてもらうという選択肢を検討できます。

2.集めた資料を使って遺産を取り戻すための手続きを行おう

使い込みの証拠が集まったら、遺産を取り戻すための手続きに移ります。ほとんどのケースでは、当事者同士で話し合うか、裁判手続きに持ち込むかのどちらかです。

2-1.当事者同士で解決するための方法について話し合う

まずは、相続人同士で話し合ってみましょう。当事者同士で解決できるなら、今後の親族関係に及ぶ影響を最小限に抑えられます。

具体的には、以下のように話し合いを進めます。

話し合いの進め方の例

  • STEP1:使い込みが疑われる当人に、使い込みの事実がないかを尋ねる
  • STEP2:否定するなら、集めた証拠を見せ、事実関係について1つひとつ尋ねる
  • STEP3:それでも否定するなら、弁護士に相談して裁判も考えていると伝える

※この時、使い込んでいると決めつけて尋ねると、態度が頑なになることがあるので注意

※証拠をどの順番で見せ、どんな質問をするか事前に良くシュミレーションしておきましょう

使い込みを認めて話し合いがまとまれば、遺産分割協議書を作成しましょう。使い込んだ額も含めて財産を分配することで、実質的に使い込まれた遺産を取り戻せます。

使い込みをしている当人が、それほど悪いことをしていないと思い込んでいることもあります。「自分は他の親族よりも被相続人の介護や身の周りの世話をしてきたのだから、少しくらい使ってもよいではないか」といった具合です。そのとき、面と向かって「返金しろ」と責め立てると、相手方の態度がますます頑なになるかもしれません。

このケースでは、弁護士に相談し、話し合いをまとめてもらうことを検討しましょう。第三者が入ったことで冷静になり、話し合いが前に進むことはよくあります。

話し合いがうまくいかなかったとき、遺産分割調停では解決するのは難しい

遺産の使い込みを解決するのは、遺産分割調停でも困難です。遺産分割調停は遺産の範囲が決まっていることが前提条件となっています。使い込みの場合は、遺産が全体でどれ位あったのかが不明なので、調停に持ち込めません。そのため、話し合いがうまくいかなかったときは、通常、裁判手続きに移行します。

2-2.当事者同士の話し合いで解決できないときは裁判手続きに移行

民事訴訟では、裁判を起こす側が証拠を提出し、納得できる主張であることを裁判所に認めてもらう必要があります。裁判手続きは複雑なので、自分の力だけで行なうことは困難です。そのため、通常は弁護士に依頼します。

遺産の使い込みの場合、訴訟の仕方は大きく分けて2種類。「不当利得返還請求」と「不法行為による損害賠償請求」という方法があります。

2-2-1.不当利得返還請求で使い込まれた財産を返すよう要求できる

遺産を使い込んだ相続人は、本来もらうはずのない不当な利益を得ています。そのことを理由に、財産の返還を求めることができます。これが、不当利得返還請求訴訟です。

請求できる金額は、基本的に法定相続分が上限となります。不当利得返還請求は、自分が得るはずだった分(法定相続分)の利益を取り戻す手続きです。そのため、不法行為による損害賠償に比べて、賠償額は少なくなる可能性があります。

不当利得の返還義務(民法第703条)

法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

2-2-2.不法行為を理由に損害賠償請求を提起することもできる

遺産の使い込みによって他の相続人に損害を負わせたことを理由に、損害賠償を請求することもできます。これが、不法行為にもとづく損害賠償請求です。

精神的損害を与えられたことを理由に慰謝料を請求することも可能。また、弁護士費用の請求が認められるケースもあります。

不法行為による損害賠償(民法第709条)

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

時効によって請求が認められないことがある

どの裁判手続きをとるかによって、時効の長さが違ってくる

▲どの裁判手続きをとるかによって、時効の長さが違ってくる

裁判手続きを起こしたとしても、時効によって請求が認められないこともあります。

不当利得返還請求は、使い込みの事実があった時点から10年で時効です。ただし、使い込みの事実を知っていたときは5年で時効となります。一方、不法行為による損害賠償請求は、損害及び加害者を知った時点から3年です。

使い込みがあったのは10年以上前で、最近その事実を知ったとします。時効により不当利得返還請求は認められませんが、不法行為による損害賠償請求を提起すれば、遺産を取り戻せる可能性があります。

3.生前に財産が勝手に使い込まれることを防止する方法

まだ親が生きているうちに、勝手に財産が使われていることに気づく場合があります。

近年、認知症患者が増えていることもあり、親族による使い込みは増加傾向。そのため、相続発生時にトラブルにならないよう、事前に対策しておくことは重要です。

使い込みを防止するために、成年後見制度家族信託の活用を検討しましょう。

3-1.任意後見契約を結ぶ

使い込みを防止する1つの方法は、任意後見契約を結ぶことです。任意後見は、将来、認知症を発症したり、介護が必要になったりしたときでも、指定した後見人が財産を管理してくれる制度です。これにより、医療費や介護費用を名目にして親族が勝手に財産を使い込むのを防ぎます。

任意後見契約は、親が元気なうちに結んでおかなければなりません。まず、財産を管理してくれる信頼できる人を見つけましょう。家族、友人、弁護士などの専門家、第三者機関など幅広い人が任意後見人になれます。話し合いがまとまったなら、公証役場で契約書を作成します。

契約書の作成をサポートしてもらうために、司法書士や弁護士に相談しておくと安心です。

3-2.裁判所に成年後見人を選任してもらう

すでに認知症を発症している場合は、裁判所に申し立てることで成年後見人の選任が可能。成年後見人は、毎年、裁判所のチェックを受けます。また、親族が成年後見人に就任したときは、弁護士や司法書士が後見監督人ととしてつく場合があります。第三者によってしっかりチェックされるので、使い込みを予防できるというわけです。

3-3.家族信託制度で財産の流れを把握しておく

家族信託制度を活用することでも使い込みを防止できます。家族信託は、財産を今後どのように使っていくかが書かれた設計図のようなものです。前もって財産の流れを決められるので、不当な使い込みを防げます。

ただし、家族信託は比較的新しい制度のため、法的に未知数な部分もあります。また、不動産を信託財産にすると不動産登記をする必要もあります。家族信託の利用を考えるなら、家族信託に詳しい専門家に相談して手続きを進めるようにしましょう。

遺産の使い込みを取り戻すためには証拠集めが鍵

遺産の使い込みを取り戻せるかは、どれ程証拠を集められるかにかかっています。使い込みが疑われる場合は、スピーディーに証拠集めの手続きを進めましょう。自分で集めるのが難しいときは、弁護士に相談してみるもの1つの手です。

生前の使い込みを防止するためには、成年後見制度や家族信託の活用を検討できます。家族信託は比較的新しい相続対策です。相談する専門家によって提案できる選択肢の幅に違いが出てくるので、信頼できる専門家を選ぶ必要があります。

税理士法人チェスターには、実績豊富なスタッフが多数在籍しています。相続対策をお考えの際は、税理士法人チェスターにお気軽にご相談ください。

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