【遺言による贈与(遺贈)と死因贈与はどう違う?メリット・デメリットも解説】

【遺言による贈与(遺贈)と死因贈与はどう違う?メリット・デメリットも解説】

特定の人に財産に遺すには、相続以外の方法として2つあります。
1つは遺言による贈与(遺贈)、もう1つは死因贈与です。
この2つは「死をきっかけに財産がある人に移転する」という点では似ています。
しかし、法律上の意味は大きく異なるのです。

今回は遺言による贈与と死因贈与の違いを、メリット・デメリットも含めて解説します。

1.遺言による贈与(遺贈)は故人が単独で財産の承継先を指定する行為

遺言による贈与は、遺言者が遺言によって自分の死後、財産を特定の人に与えるものです。
相続財産は、遺言がなければ故人の妻や子供などといった相続人しか引き継げません。
遺産分割協議で相続人同士が話合い、財産の分け方を決めます。

しかし、遺言を作っておけば、特定の相続人や相続人以外の誰かに財産を渡すことができます。
また「誰に渡すか」「何を渡すか」「どれくらい渡すか」もあらかじめ決められます。
さらに、遺言は単独行為です。誰にも知られずに遺産の承継先を遺言書で指定できます。

2.死因贈与は贈与者の死亡時に効力が生じる贈与契約

死因贈与は財産の持ち主が生前、特定の相手と贈与契約を結ぶことで、自分の死亡時に受贈者に財産が渡るようにするものです。民法では贈与の成立条件を「ある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾すること」(民法第549条)としています。

そのため、贈与者と受贈者がお互いに「あげます」「もらいます」と合意していなくてはなりません。

3.遺言による贈与と死因贈与の共通点

遺言による贈与と死因贈与には次の3つの共通点があります。

3-1.あらかじめ決めた人に財産を引き継がせる

1つ目は決めた人に財産を引き継がせる点です。
財産の持ち主が亡くなると、遺言なら指定された相続人か受遺者、死因贈与なら受贈者が財産を受け取ることになります。

3-2.相続税がかかる

2つ目はいずれも相続税の課税対象となる点です。
遺言による贈与も死因贈与も「贈与」という用語がついていますが、人の死亡を機に生きている人が財産を取得することから相続税の課税対象となっています。

3-3.登記が必要

3つ目は受け取った財産が土地や建物といった財産なら、登記が必要だという点です。
ただし、後述するように、遺言か死因贈与かで手続きが異なります。

4.死因贈与と遺言による贈与の7つの相違点

遺言による贈与と死因贈与には、次の7つの違いがあります。

4-1.当事者間の合意があるかどうか

遺言による贈与は単独行為なので、遺言者の意思のみで行うことができます。
財産の承継者として指定された人は原則、遺言書の内容が公開されるまでどんな財産をどれくらい取得できるのかを知りません。
相続が始まった後でなければ分からないのです。

しかし死因贈与は契約の一種なので、当事者同士の合意がなければ成立しません。
したがって、受贈者は贈与者が亡くなる以前から、どんな財産を取得することになるのかを把握しています。

4-2.登録免許税と不動産取得税の税率

遺言による贈与も死因贈与も、対象が不動産なら名義変更が必要です。
この名義変更には登録免許税と不動産取得税がかかります。
この2つの税金は、次のように異なります。

遺言による贈与(遺贈)死因贈与
登録免許税法定相続人:0.4%
法定相続人以外:2.0%
一律2.0%
不動産取得税法定相続人:非課税
法定相続人以外:4.0%
一律4.0%

つまり、名義変更にかかる税金は死因贈与の方が高いのです。
3000万円の土地のケースを子どもに渡すケースで考えてみましょう。
相続が発生すると子どもは法定相続人になります。

そのため、遺言による贈与なら登録免許税は12万円、不動産取得税は0円です。
しかし死因贈与だと登録免許税は60万円、不動産取得税は120万円もかかってしまいます。
遺言による贈与なら12万円で済むコストが、死因贈与にしただけで180万円に跳ね上がってしまうのです。

4-3.書面が必要かどうか

遺言は書面の作成が大前提です。
「私が死んだら2000万円をあなたにあげる」といった口約束は遺言になりません。

一方、死因贈与は契約なので口頭でも成立します。
財産の持ち主が生前に「私が死んだらあなたに〇〇にある別荘をあげます」と誰かに伝え、相手が「分かりました、もらいます」と答えれば贈与契約は成立するのです。

ただし、口頭だけだと相続が発生した後のトラブルになるおそれがあります。
そのため、死因贈与契約書を作成するのが一般的です。

4-4.撤回できるかどうか

遺言による贈与は単独行為なので、新しい遺言書を書けば撤回できます(民法第1022条)。

一方、死因贈与も遺贈に準ずる制度なので、基本的に撤回できます。

ただし「贈与者の死亡時に受贈者が財産を取得する代わりに、贈与者の介護・看護をする」といった負担付き死因贈与だと難しいことがあります。受贈者が定められた義務や負担を履行していると、「撤回は契約当事者の一方に不利」となるため、認められないこともあるのです。

4-5.仮登記できるかどうか

死因贈与で渡す財産が不動産については、受贈者の承諾があれば仮登記ができます。
「始期付所有権移転仮登記」を受贈者が申請すれば仮登記できるのです。

ただし後々のトラブルを防ぐなら、事前に死因贈与契約書の中で「贈与者が仮登記の申請について承諾すること」「死因贈与契約書の執行者を受贈者と指定すること」と記載し、契約書を公正証書にしておいた方が無難です。

死因贈与で取得した不動産は本来、登記手続きに手間がかかります。
しかし、この仮登記をしておけば、贈与者の死後、受贈者は単独で所有権移転登記を行えるのです。
なお、このような仮登記は遺言による贈与では行えません。

4-6.所有権移転登記のしやすさ

死因贈与や遺言による贈与の対象が不動産だと、第三者への対抗要件を具備すべく、登記・登録など所有権移転の手続きを行うことになります。どちらもこの手続きは必要ですが手間の度合いが異なるのです。

遺言による贈与での所有権の移転登記は、受遺者と遺言執行者で行います。
遺言執行者がいなければ相続人が遺贈義務者として遺言による贈与を履行しなくてはなりません。
けれど、相続人全員の同意はいらないのです。

一方、死因贈与では原則、受贈者だけでなく贈与者の相続人全員と共に所有権の移転登記をしなくてはなりません。誰か一人でも抵抗したら名義変更できなくなるのです。
このように比較すると、遺言による贈与の方が手間が少ないといえます。

4-7.年齢制限

遺言による贈与は15歳になれば単独で行えます(民法第961条)。
遺言は書いた人の意思を尊重する制度です。
そのため民法では、「自分の書いた内容を確認・理解できる年齢である15歳に達すれば遺言ができる」としています。

一方、死因贈与は契約という法律行為であるため、贈与者は20歳以上でなくてはなりません。
もし未成年者が死因贈与契約を行うなら、親など法定代理人の同意を得る必要があります(民法第5条)。
ただし、未成年者が受贈者なら単独で受けることも可能です。

5.遺言による贈与のメリット

遺言による贈与のメリットは次の3つがあります。
1つ目は財産をあげたい相手の同意がいらないという点です。
死因贈与では当事者同士の合意が必要なので、契約の前に死因贈与に関し、きちんと話し合わなくてはなりません。相手が贈与に承諾しなければ不成立となります。
しかし遺言は遺言者の単独行為なので、いちいち相手に知らせることなく、密かに遺言書の中で財産の承継先を指定することができるのです。

2つ目は撤回が容易だという点です。
「一度遺言書を作成したけれどやっぱり変えたい」となったとき、財産をあげたい相手の同意は要りません。新たな遺言書を書きさえすれば、前の遺言は撤回できるのです。

3つ目は指定された財産が不動産なら所有権移転の手間とコストが軽くて済む、という点です。
「4-6」に書きましたが、遺言による贈与なら相続人全員の贈与がなくても所有権移転登記はできます。また「4-2」で見たように、受遺者が相続人なら「登録免許税は0.4%、不動産取得税は非課税」で済むのです。

6.遺言による贈与のデメリット

遺言による贈与には次の2つのデメリットがあります。

1つ目は財産が指定した人に引き継がれない可能性があるという点です。
遺言は遺言者の単独行為であり、相続人や受遺者の意思は関係ありません。

そのため、遺言で指定された財産の中には、もらう側にとっては嬉しくないものが含まれていることがあります。このようなケースで相続開始以後3か月以内に相続放棄を裁判所に申述し、受理されれば、相続人や受遺者は遺言書で指定された財産を引き継がなくてよくなります。
見方を変えれば遺言者の意図したような財産の移転が行われなくなるのです。

2つ目は、民法の決まりに従わないと無効となってしまう点です。
遺言は書面で遺さなくては認められません。
また、遺言書には大きく分けて自筆証書遺言と公正証書遺言の2つがあります。
自筆遺言証書の場合、民法に規定された形式に則って書かないと無効になります。
さらに遺言者の死後、裁判所による検認が必要です。すべてを守らないと遺言書は効力を失います。

7.死因贈与のメリット

死因贈与のメリットは3つあります。

1つ目は相続人に自分の意思や要望を伝えられるという点です。
契約なので、事前に贈与する相手にどんな財産を贈与したいのか、なぜ贈与したいと思うのかを伝えられます。また、死因贈与では負担付き死因贈与という形式を取ることもできます。
そのため、「私が死んだら財産をあげるから、生きている間は面倒を見てほしい」と要望を伝えることもできます。

2つ目は確実に財産の移転を実行できるという点です。
贈与契約は当事者双方が「あげます」「もらいます」と合意していないと成立しません。
つまり、受贈者が「もらうこと」を承諾していることが重要なのです。
事前にどんな財産を取得するのかをもらう側が知っているので、死後の財産の移転が実行される可能性が高くなります。

3つ目は遺言ほど形式に縛られない点です。
遺言は書面で遺さなくてはなりませんし、民法に規定された形式に則らないと無効になります。
しかし死因贈与は形式が自由です。

口頭でも成立します。万が一に備えて文書を作成するにしても、遺言のように法律で定められた形式はありません。贈与者の死後の検認も不要です。

8.死因贈与のデメリット

メリットがある一方、死因贈与には次の3つのデメリットがあります。

1つ目は形式によっては死後、トラブルになる可能性があるという点です。
形式にとらわれないので口頭でも成立しますが、それだけだと相続開始後、贈与者の相続人との間で争いになるおそれがあります。また書面があったとしても、全部が印字されていると真正性が疑われるかもしれません。
面倒な事態を避けるなら、当事者の署名と日付は手書きにし、押印は実印で行う必要があります。

2つ目は撤回が簡単ではないことがあるという点です。
死因贈与も遺言に準じた形式であるため、撤回することはできます。
ただしそれは「単に財産をあげるだけ」のときです。

負担付き死因贈与のように「Aが死んだらBに財産をあげるけど、代わりにBはAの生活の面倒を見ること」といった条件がついているケースで、もしBが「生活の面倒をみる」という負担を履行していたら、特別な理由がない限りAは撤回できません。

3つ目は、移転する財産が不動産だと登記にかかるコストと手間が大きいという点です。
「4-2」で見たように、死因贈与は受贈者の立場に関係なく「登録免許税2.0%、不動産取得税4.0%」がかかります。また、「4-6」にある通り、名義変更には相続人全員の同意が必要になります。

受贈者が推定相続人なら通常の相続か遺言による贈与の方が少ない負担で済むのです。

9.遺言と死因贈与が抵触したときの対処法

なお、遺言と死因贈与が抵触することがあります。
遺言書に「Aに甲土地を相続させる」と書いてあるのに、Bが「死因贈与契約で甲土地をもらうことになっていた」と主張するといったケースです。このようなとき、遺言と死因贈与のどちらが優先するのでしょうか。

まず考えたいのが遺言の有効性です。
遺言書が民法に則った形で遺されており、有効でなければ死因贈与が優先されます。
また死因贈与についても死因贈与契約書が存在していることが必要です。

遺言と死因贈与いずれも有効だとするなら、次に検討すべきは「どちらの日付が新しいか」になります。遺言をした後、その遺言に抵触するような死因贈与が行われたのなら、遺言を撤回したとみなす民法上の規定があります(民法第1023条)。

そして死因贈与契約は、原則として遺贈に関する規定が準用されます(民法第554条)。
先ほどの規定と併せて考えると、死因贈与をした後に遺言をしたようなケースでは死因贈与契約を撤回したものと考えることができるのです。

10.遺言と死因贈与、どちらを選ぶべき?

「財産をあの人に遺すなら、遺言と死因贈与、どっちがいいんだろう」と迷われるかもしれません。
どちらがいいかは状況によって異なります。
「相手に渡す財産を知られたくない」と思うなら遺言による贈与の方がよいでしょう。
人によっては、いずれ多額の財産が手に入ると分かった時点で散財したり借金したりするかもしれません。そのような事態を防ぎたいのなら、ひっそりと作成して財産の承継先を指定できる遺言の方がよいといえます。

また、あげる財産が不動産で、相手が確実に取得すると見込めるなら、遺言の方がよいかもしれません。名義変更の税負担や手間が減らせるからです。

しかし、「贈与する財産の内容を相手に知っておいてほしい」「自分の死後、確実に財産を相手に渡るようにしたい」と思うなら死因贈与がよいでしょう。亡くなった人が周囲に何も知らせずに遺言を遺すと、相続人や受遺者は期待していた財産を取得できなかったり、逆に欲しくない財産を取得したりすることになります。

また、死因贈与は受贈者が承諾の上、契約書に署名捺印する必要があります。
こういった行為を通じて、受贈者としてはっきりとした自覚をもちやすくなります。
ただし、名義変更にあたって手間やコストがかかることも伝えておいた方がよいでしょう。

11.後々のトラブルを防ぐなら相続の専門家に相談を

今回は遺言による贈与と死因贈与の違いについて解説しました。
自分の死後、財産を誰かに遺すとき、遺言による贈与と死因贈与のどちらがいいかを判断するのは難しいものです。贈与者や家族の状況を含めて検討しないと適切な選択ができません。
また、決断できたとしても、安易に実行すると予期せぬトラブルが生じるおそれがあります。

「遺言による贈与か、それとも死因贈与か」と迷ったら相続専門のチェスターにご相談ください。

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