事業承継における親族内承継とは。スムーズな会社の引き継ぎ方
タグ: #M&A事業承継を分類すると、親族内承継の割合が高いのが現状です。親族内での事業承継でも、準備が不足するとトラブルが発生する可能性があります。想定されるトラブルの具体例や対策方法・親族内承継の流れ・方法などを見ていきましょう。
目次 [閉じる]
1.親族内承継の特徴
経営者の子どもや親戚が後継者として会社を引き継ぐことを『親族内承継』といいます。経営者一族内から後継者を選ぶ方法には、どのような特徴があるのでしょうか?
1-1.事業承継は親族内承継の割合が大きい
事業承継の方法には、従業員を後継者とする内部昇格や、第三者へ売却するM&Aなどがあります。さまざまな方法で引き継がれていますが、東京商工リサーチの企業データベースを見ると、現在でも主流は親族内承継です。
特に中小企業では、経営者の子どもが後継者になるケースが多いでしょう。少子高齢化や価値観の変化などの事情から、親族内承継の割合は減少傾向とはいえ、それでもなお多くの企業で採用されている引き継ぎ方です。
1-2.従業員、取引先と関係を築きやすい
親族内承継では後継者が早い段階で決まっているケースがほとんどです。そのため会社の経営に関わり始める前から、現場の仕事を経験しつつ従業員との信頼関係を築けます。
その過程で取引先の担当者とも関わり、徐々に関係性を築けるはずです。経営者が金融機関を訪れるときに後継者として同行すれば、事業承継の手続きを取るときにもスムーズに進みやすくなるでしょう。
このように早いうちから後継者を周知していけば、関係する人々からの納得を得やすくなります。十分な信頼関係が築ければ、経営者の引退後に役員や従業員が離れていくといったことも防げるはずです。
1-3.幼いころから後継者を育てられる
子どもを後継者にする場合、幼いころから経営者として必要なことを学ばせるケースもあります。後継者の教育には少なくとも10年間は必要です。
親族内承継では比較的早い段階で後継者が決まるため、十分な時間をかけて後継者を育てられるメリットがあります。大学卒業後に同業種の他社で経験を積ませた後、自社へ呼び寄せるといった教育も可能です。
時間に余裕を持って入念に教育できるため、事業承継の時期を柔軟に判断しやすくなるのもよい点といえます。
2.親族内承継の問題「経営者の考え方」
時間をかけて準備しやすい親族内承継ですが、経営者の考え方によってはスムーズに進みにくいかもしれません。親族内承継の足かせになりやすい経営者の考え方を確認します。
2-1.経営者に「まだ自分がやれる」意識がある
経営者に「まだまだ自分は現役だ」という意識があると、事業承継はなかなか進みません。事業承継が必要な時期になっても実行されなければ、トラブルに発展する可能性もあります。
例えば経営者側と後継者側に社内が分裂するかもしれません。会社経営が立ち行かなくなる可能性がある事態です。
事業承継の手続き自体は行い、後継者が経営者に就任していたとしても、前経営者が逐一指示を出すケースもあります。創業期からの従業員や取引先などが前経営者についていくこともあり得るでしょう。
このような状態が続けば、経営者に就任した後継者は孤独を感じるはずです。やる気をなくしてしまうこともあるでしょう。
2-2.経営者への切り出し方に気をつかう
後継者から事業承継について相談したくても、切り出し方が分からないということも考えられます。そのようなときには、まず経営者に創業期のことを聞いてみると、話しの糸口になるはずです。
プライベートの時間にリラックスした状態で話してもらうと、思いがけないようなエピソードや、今まで理解しきれていなかった考え方に触れられるかもしれません。
「いつ独立しようと思ったの?」と質問してみると、思いの外話が弾むはずです。自ら事業について質問してきた後継者に対して、経営者は「安心して任せられそうだ」と感じることでしょう。
込み入った話をするとき、2人きりでは感情的なわだかまりが生じるかもしれません。第三者に入ってもらうのもポイントです。
3.親族内承継の問題「後継者の意思、能力」
どれだけ経営者が親族内承継を望んでいたとしても、後継者に引き継ぐ気持ちがないときや、それだけの能力がないときには、希望はかなわないでしょう。後継者を取り巻く状況やタイミングもポイントです。
3-1.子どもに後を継がせるタイミングを見失う
事業承継について経営者の意思表示がはっきりしない場合、子どもは自らのキャリアを歩み始めるでしょう。そのまま時間が経過すれば、子どもは就職先で重要なポジションを任されるかもしれません。
プライベートでは結婚も考えられます。後から経営者のタイミングで「事業を継いでほしい」と言われたとしても、さまざまな事情や本人の希望から後継者にはならないケースもあるはずです。
このようにタイミングを逃さないようにするには、日ごろのコミュニケーションがポイントといえます。踏み込んだ会話をしやすい関係性作りが重要です。
加えて事業承継の専門家を交えた話し合いの場も設けましょう。
3-2.借金返済、事業成長に対するプレッシャー
後継者になり会社を引き継ぐときには、財産と合わせ負債も引き継ぎます。例えば経営者が会社へ貸付をしているなら、その債権は相続人全員が引き継ぎます。
会社経営に関わらない相続人は、会社へ返済を求めることもあるでしょう。金額によっては経営状況も左右する事態です。個人保証を引き継ぐことで、会社の債務に対する保証人にならなければいけないのも懸念点です。
借金を引き継ぐのが不安な後継者もいるでしょう。不安の解消のためにも、経営者は債務を解消するための対策を講じる必要があります。
また事業を成長させられるのかが不安な後継者もいるはずです。そのようなケースでは、給与制度や人事評価制度などさまざまな体制の整備が役立ちます。
3-3.一朝一夕では身に付かない経営者の資質
中には経営者としての『資質』を不安に感じている後継者もいます。必要な経営能力がないまま経営者に就任すれば、事業承継後に業績を悪化させてしまうかもしれません。
うまく対応できなければ、社内外で実力不足と悪評が立つ可能性もあります。頑張っても経営者の手腕がいまいちで評価されないとなると、優秀な従業員が立て続けに退職することも考えられるでしょう。
経営者の資質は簡単に身に付くものではありません。もしも後継者の資質が不十分であった場合は、会社の経営状態を大きく左右する事態です。
4.親族内承継の問題「他の親族への配慮」
事業に必要な資産を経営者の個人名義で持っているケースは多いものです。経営者名義の資産をめぐり、後継者以外の親族との間でトラブルが発生するかもしれません。会社の経営に影響を及ぼさないためには、経営に関わらない親族への配慮が必要です。
4-1.遺産分割で揉めるケースがある
相続人には『遺留分』といい、法律で法定相続人に認められている最低限の遺産取得分があります。経営者の資産の多くが事業用の場合、後継者への事業承継で他の相続人の遺留分を侵害するでしょう。
後継者以外の相続人が遺留分侵害額請求をすれば、事業用の資産を後継者以外へ譲り渡すことになりかねません。このような事態を避けるには、後継者以外の相続人へ渡すために、遺留分相当額の預貯金を用意します。
後継者へ事業に必要な資産を集中的に引き継がせ、その他の相続人には事業に関わらない資産を渡せるよう対策しておけば、トラブルを避けられます。
4-2.株式の分散を回避して、経営権の確保を
株式も後継者への承継が望ましい資産です。経営権を確保し安定した経営を実現するには、自社株式の2/3以上を引き継げるとよいでしょう。遺産分割で後継者以外の相続人へ株式が分散しないよう対策が必要です。
中小企業経営承継円滑化法の遺留分に関する『民法特例』を活用するのも、事業用資産の分散を食い止める有効な手段です。実行するには複雑な手続きが必要なため、専門家へ相談しましょう。
既に自社株が分散しているなら、できる限り買い取り、後継者がまとめて引き継げるようにします。民法特例の利用も自社株の買い取りも、すぐにできるものではありません。
事業承継を見据え、早めに行動し始めるのがポイントです。
5.親族内承継の流れ
長い期間をかけて行う親族内承継は、具体的にどのような手順で進めるのでしょうか?全体の流れを把握しておくと、今後行うことがイメージしやすくなるはずです。
5-1.後継者の選定、育成
まずは後継者の選定をします。子どもを後継者にすると最初から決まっているケースもあれば、社内で働いている複数の親族の中からふさわしい人物を選ぶケースもあるでしょう。
後継者が決まったら、事業承継の時期に間に合うよう育成を開始します。会社で仕事をしながら現場の仕事を覚えたり、会社の経営に触れたりするのが基本です。
社内での教育の他に、金融機関や自治体が実施するカリキュラムや、著名な経営者や経営コンサルタントの流れをくむ私塾で学ぶこともあります。
5-2.資金を準備しておく
『資金』の準備も事業承継には欠かせません。事業承継を実施するときには、たくさんの費用がかかります。例えば分散した自社株や事業用資産の買い取り資金・相続税や贈与税などを納める資金などです。
事業承継の手続きを滞りなく実施するために、専門家へ依頼する部分もあります。このとき専門家へ支払う費用も確保しなければいけません。
できるだけ負担を抑えるには、補助金を活用するのも一つの方法です。例えば『事業承継・引継ぎ補助金』を使えば、事業承継に必要な資金をサポートしてもらえます。
公募期間や実施期間などが決まったときすぐに動き出せるよう、早めに準備をしておくとよいでしょう。
5-3.株式の名義変更を行う
事業承継をするときには、最終的に株式の『名義変更』をして終わります。株主として経営権といった権利を行使するには、株主名簿に名前が記載されていなければいけません。
経営者から株式を引き継いだときには、できるだけ早い段階で株主名簿を書き換え名義変更しましょう。株式譲渡は事業承継によるものであっても法務局への申請はいりません。
行政によるチェックが入らない点は手軽さの面でメリットです。しかしミスなく手続きをするには注意点が増えます。
また親族経営の会社であれば、株主総会議事録といった書類の作成だけを行い、実際の株主総会は開催せず株式譲渡を行うケースもあります。親族間の関係によっては後々トラブルに発展するケースもあるため要注意です。
6.親族内承継の方法
親族内承継といっても、実際の方法には『生前贈与』『相続』『株式の売買』の3種類があります。それぞれどのような方法で実施するのかを確認しておくと、自社のケースにぴったりの方法を選べるでしょう。
6-1.生前贈与で承継する
経営者が存命の間に事業承継をするときには『生前贈与』を活用します。株式を後継者へ贈与し、経営権を譲り渡す方法です。
生前贈与では相続税に注意しましょう。事業承継をするためと一気に株式を譲渡すると、後継者が多額の贈与税を負担しなければいけません。
贈与税には1年間に110万円の基礎控除があるため、控除額以下で毎年こつこつ譲り渡せば、贈与税はかかりません。1度に株式を贈与するなら、特別控除2,500万円のある相続時精算課税制度の利用がぴったりです。
後継者が取得した資産にかかる、贈与税や相続税の納税を猶予する『事業承継税制』を活用するのもよいでしょう。
参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
参考:事業承継税制特集|国税庁
6-2.公正証書遺言を作成し、相続で承継する
『相続』により経営者が死亡したときに事業承継する方法もあります。この場合ポイントとなるのが『公正証書遺言』です。
経営者が遺言書を用意していない場合、事業用資産も含め、他の相続人と分割しなければいけません。これでは経営が立ち行かなくなってしまいます。
このような事態への対策として、後継者に事業用の資産を承継させるという内容の公正証書遺言を作成しておきます。また相続時には相続税が課されますが、基礎控除額がある点が特徴です。
『3,000万円+600万円×法定相続人の数』で計算した基礎控除額を差し引き、課税価格を求めます。その分相続税の負担を抑えられる仕組みです。
6-3.株式の売買で承継する
適正な価格を支払い株式を『売買』して事業承継してもよいでしょう。後継者が多額の資金を用意しなければいけませんが、相続や贈与と異なり遺留分を主張されるリスクがないのが特徴です。
後継者としての地位を確固たるものにできますが、時価と比べて安い価格で株式を売買した場合、経営者から後継者への贈与とみなされます。支払った金額との差額分は贈与税の対象です。
さらに遺留分を請求される可能性もあります。売買による事業承継のメリットを生かすなら、必ず適正な価格で株式をやり取りしなければいけません。
7.親族内承継は早めにスタートさせる
子どもやその他の親族が後継者として会社を引き継ぐことを、親族内承継といいます。早い段階から後継者を決定し、教育を始めやすい点がメリットです。
事業承継まで余裕があるときから、従業員や取引先・金融機関などに後継者として紹介していれば、後継者と関係先との信頼関係が成立しやすいのもよい点といえます。
また準備に余裕があれば、後継者は経営者の理念を、経営者は後継者の不安を理解し、万全の体制で事業承継できるよう体制を整えられるでしょう。相続や贈与が発生したときの他の親族への対策も可能です。
事業承継では相続税や贈与税など税金が発生するかもしれません。税金の不明点については『税理士法人チェスター』へ相談しましょう。
『事業承継』にまつわる税負担について詳しく知るには、下記もご覧ください。
【事業承継】驚くほど高額な相続税で経営危機に?大切な会社を次世代に残す方法とは|【税理士法人チェスター】
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