事業譲渡や親族内承継における地位承継について。期限や注意点など

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地位継承は事業譲渡や親族内承継で発生する手続きです。事業を引き継いだとしても、事業に必要な店舗やオフィス・許認可などが自動的に引き継がれるわけではありません。個別に手続きして地位承継しなければいけないものについて解説します。

1.事業譲渡の意味と地位承継

事業譲渡の意味と地位承継

引き継ぐ資産や負債を個別に決める事業譲渡では、権利や契約などを引き継ぐときに個別に手続きをしなければいけません。事業承継の意味や地位承継について見ていきましょう。

1-1.資産や契約上の地位などを移転する手法

M&A手法の一つである『事業譲渡』は、会社の事業の一部もしくは全部を承継します。株式譲渡では資産や負債を含めた会社の全てを引き継ぐ包括承継が基本ですが、事業譲渡は個別に資産や権利を引き継がなければいけません。

このときに実施するのが『地位承継』です。例えば親の事業を子どもが引き継ぐ場合、事務所として賃貸している不動産の賃貸借契約は引き継がれません。

そこで契約の相手である賃貸人の許可を得て名義変更を行い、地位承継をします。

1-2.移転方法と期限

地位承継で権利を引き継ぐには、契約相手から個別に承諾を得なければいけません。取引先との契約も、これまで通り継続するには同意を得る必要があります。

相手が同意しないなら、該当する権利・義務の引き継ぎは不可能です。これまでの経営者だからこその契約内容だったけれど、経営者が変わるなら条件が変わる、というように地位承継できないケースもあります。

権利・義務の地位承継は、契約書で期限を定めるのが一般的です。売り手が事業譲渡の効力発生日までに契約相手の承諾書を取得する、という内容を記載します。

やむを得ず延期が必要なケースに対応するため『売主及び買主が別途合意する日』と併記しておくと確実です。

2.地位承継の具体例

地位承継の具体例

さまざまな権利・義務で必要な地位承継は、どのような手続きを取るのでしょうか?賃借権・許認可・債務について、承継の方法を確認します。

2-1.賃借権の承継

原則として『賃借権』は譲渡不可能です。そのため事業に必要な店舗や事務所の契約であっても、事業を継いだからと当たり前に賃借権を得られるわけではありません。

事業譲渡のみ実施して賃貸借契約について手続きしていない場合、店舗や事務所を使えなくなってしまいます。そこで必要なのが、不動産のオーナーである賃貸人に、賃借権の譲渡に同意してもらうことです。

このとき、賃貸人に売り手が預けていた敷金の返還請求権は、基本的に引き継げません。敷金返還請求権の譲渡についても、必要があれば賃貸人の承諾を得ます。

2-2.許認可の承継

事業承継では『許認可』の承継もできません。そのため事業を引き継ぐときには、買い手が許認可を取り直す手続きが必要です。

例えば飲食店の営業許可は、経営者が変わることで白紙になります。そのままでは飲食店を引き続き営業できないため、買い手は営業許可を取得し直さなければいけません。

親の経営している飲食店を子どもが引き継ぐときや、知り合いから店を譲ってもらうときに必要な手続きです。

2-3.債務の承継

売り手の持つ債務を買い手が引き継ぐときには、債務引受の手続きと同時に債権者の許可を得なければいけません。無許可で債務を移転すると、債権者は契約したのと別の人に資金を貸していることになります。

もとの経営者であれば貸付を継続してもよいけれど、買い手が経営者になるなら債権を回収したいと考えるかもしれません。債権者が不利益を被らないよう、配慮が必要です。

3.合併、会社分割と地位の承継

合併、会社分割と地位の承継

全ての事業や契約・債務などを個別に承継する事業譲渡は、地位承継の手続きが欠かせません。では組織再編にあたる合併や分割を行うときには、どのように扱われるのでしょうか?

3-1.合併では原則契約上の地位を承継する

合併を行うとき、消滅会社の持つ契約や債務は、全て存続会社に引き継がれるのが原則です。『包括的に承継』されるため、個別に地位承継の手続きを行う必要はありません

消滅会社が締結した契約書があれば、合併後も有効です。組織再編で社名や代表者名が変わったとしても、契約の効力に影響を及ぼすことはありません。

そのため個別に再契約をしなくても、合併前と同様の取引を継続できます。債務もそのまま引き継ぎますが、債権者の利益を守るために『債権者保護手続き』の実施が必要です。

債務者が変わると債権を回収できない可能性が生じるため、事前の告知と異議申し立て期間を設けます。

3-2.会社分割を選んだ場合も同様

『会社分割』で組織再編をする場合も、基本的には合併と同じように扱われます。事業に関する権利義務を包括的に承継させる点で合併と同様のため、権利義務の扱いも同じです。

地位承継のための再契約や、許認可を取得し直す必要はありません。債務の引受も合併と同様で、債権者へ個別に承諾を得る必要はありませんが、債権者保護手続きを取ります。

4.取締役である親族が死亡した場合はどうなるか

取締役である親族が死亡した場合はどうなるか

会社を経営している親族が死亡すると、親族内承継を行うケースが一般的です。その場合の地位承継はどのように行われるのでしょうか?承継されるものとされないものを見ていきましょう。

4-1.親族内承継とは

死亡した経営者の配偶者や子ども・子どもの配偶者など、血縁や親族関係にある人物が事業を引き継ぐことを『親族内承継』といいます。事業承継の中でも行われるケースが多く、一般的な形態です。

役員や従業員はもちろん取引先など、会社を取り巻く大勢の人に納得してもらいやすい承継の仕方でもあります。早い時期から承継する人物を定めておけば、長い時間をかけて後継者教育が可能です。

経営者が死亡し引き継ぐときには、申し分ない実力を兼ね備えた後継者として、すぐに手腕を発揮できる可能性もあります。ただし親族内に経営者向きの人物がいるとは限りません。

また、事業に必要な資産を後継者へ引き継がせるには、後継者以外の相続人に対する配慮も必要です。

『親族外承継と親族内承継の違い』については下記もご覧ください。

親族外承継と親族内承継におけるメリット・デメリット

4-2.原則契約上の地位は相続の対象

相続が発生した場合『契約上の地位』も相続の対象です。例えば店舗の賃借権は、もとの経営者が存命中に引き継ぐと譲渡できません。しかし相続はできるため、遺産分割協議後に賃貸人に伝えればそのまま利用できます。

事業用資金として借りていた債務も相続の対象です。基本的には後継者を含めた相続人全員で、法定相続分に分割します。

分割割合は債権者の許可を得なければ変更できないため、事業に関係ない相続人も引き継がなければいけません。また亡くなった経営者が会社に対して持っている債権も相続の対象です。

相続人は債権の支払いを請求できます。金額によっては会社の運営が立ち行かなくなるかもしれません。生命保険の活用といった対策をしていない場合、債務や債権の問題が発生する可能性があります。

4-3.相続で取締役、役員の地位は承継しない

経営者が亡くなり相続が発生すると、経営者の個人名義で保有する事業に必要な資産や負債は相続の対象になると分かりました。しかし後継者だからといって、会社の取締役の地位はそのまま引き継げません。

役員の地位は『一身専属権』のため、相続の対象にはならないためです。相続人を後継者として取締役に就任させるには、株主総会を実施し取締役に選任した後、承諾を受ける必要があります。

5.必要な手続きを確認して計画通りに進めよう

必要な手続きを確認して計画通りに進めよう

個別に引き継ぐものを決定する事業譲渡を実施するときには、契約・権利・債務などの包括的な引き継ぎは行われません。そのため個別に地位承継の手続きを取ります

例えば店舗や事務所の賃借権を引き継ぐには、賃貸人の許可を得て名義変更をします。取引先との契約も、個別に結び直さなければいけません。許認可の取得も必要です。

必要な手続きをよく確認して進めなければ、事業譲渡の効力発生日になっても営業できない事態もあり得ます。ただし経営者が死亡し相続が発生するケースでは、扱いが変わるかもしれません。

例えば賃借権は相続の対象のため、名義変更が不要です。事業承継や相続にまつわる税金について相談をするなら『税理士法人チェスター』がよいでしょう。

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