遺産分割の進め方

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遺産分割の進め方

事例|同居の相続人と非同居の相続人間でモメたケース

母の相続です。相続人は姉(長女)と私(長男)の2人だけです。父が亡くなり母は1人になってしまったので、姉夫婦が実家に戻り、母の面倒をみていました。

相続関係

49日までは相続の話はやめようと思っていたので、先日、49日法要の後に、姉に母の遺産と今後の進め方について聞いてみました。すると、隣にいた義理の兄(姉の夫)から、「遺産は実家の不動産と預金500万円だけど、お義母さんの面倒を見てきたのは妻なので、相続については遠慮をしてもらえないか。」と言われました。

私としては、姉弟間で平等に相続すべきと考えていて、遠慮するつもりはまったくありません。むしろ、母は父の相続の際、預金を3000万円相続したのに、母の死亡時には預金が500万円しかなかったので、姉に生前贈与したか、姉が勝手に使ったものと思われ、そうだとすると不公平です。

姉との遺産分割協議はモメてしまいそうで今から気が重いですが、遺産分割については、どのように進めていくのがよいのでしょうか?そしてもし、話合いがつかない場合は、どのような手続になるのでしょうか?

※架空の事例です。

はじめに

遺産分割を行う場合、まずは相続人間で遺産分割協議を行い、協議がまとまらなければ遺産分割調停を申し立て裁判所で改めて話し合いを行い、調停が不成立となった場合は裁判所の遺産分割審判により、遺産分割の内容が決められます。

それでは以下で詳しく見ていきましょう。

まずは裁判外での遺産分割協議を行う

相続が発生した場合、被相続人と「同居していた相続人」と、「同居していなかった相続人」との間でモメてしまうことが少なくありません。

なぜなら、同居相続人としては、自分ばかりが被相続人の面倒を見ていたので遺産分割にあたってはその点が考慮されるべきとの思いがありますし、非同居相続人としては、同居相続人が自分の知らないところで生前贈与を受けているのではないかと疑い、そうだとすれば不公平だと考えるからです。
相続財産の名義変更や解約などの相続手続を行う場合、相続人全員が署名捺印をした遺産分割協議書と各相続人の印鑑証明書が必要となります。

そのため、感情的な対立がある場合でも、相続手続を行うためには、同居相続人と非同居相続人との間で遺産分割協議を成立させる必要があります。

そこで、事例のケースでは、長男(非同居相続人)から長女(同居相続人)に対し、遺産分割協議の申入れを行うのが、まず最初に行うべきことでしょう。

申入れの方法としては、手紙やメール、もしくは電話など、適宜の方法で構いませんが、相続人の代理人として弁護士から遺産分割協議の申入れを行う場合は、通常、書面により行います。

そのうえで、相手方が遺産分割についてどのような意向を持っているのかを確認し、双方譲歩することで話し合いにより協議が成立した場合には、合意内容をまとめた遺産分割協議書を作成し、全相続人で署名捺印を行い、印鑑証明書を交付しあうことで、ようやく相続手続を行える状態となります。

協議がまとまらなければ遺産分割調停を申し立てる

しかし、同居相続人と非同居相続人との間では、上記のとおりモメるケースが少なくなく、そうすると、話し合いでの解決は難しくなります。

その場合、何もしないままでは相続手続が進むことはありませんので、遺産分割を行うためには、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。

調停は、遺産分割のために調停委員会(裁判官及び調停官)が仲介し関与する手続ですが、あくまで裁判所における話合いの手続ですので、相続人全員が合意しなければ、調停は成立しません。

調停手続では、五月雨式に協議を行うのではなく、調停委員会の指揮のもと、段階的に協議が進められていきます。

例えば、東京家庭裁判所では、以下の①~⑤の順番に従い、段階的に協議が進められていくことになります。

①相続人の範囲を確定

まずは、誰が相続人かを確定させます。相続人の範囲は、通常戸籍等から明らかですが、戸籍の記載が事実と異なるなど相続人の範囲に争いがある場合、調停の前提として、訴訟手続により相続人の範囲を確定させる必要があります。

②遺産の範囲を確定

次に、遺産の範囲を確定させます。遺産分割の対象財産は、被相続人が死亡時に所有し、かつ、遺産分割時に存在するものとなります。

仮に、特定の相続人が遺産の使い込みをしてしまっている場合、すでに存在しないものですので、遺産分割の対象財産とはなりません。

なお、この使い込みに対する法的対処ついては、「遺産の使い込みが発覚した場合の対処法は?」をご参照ください。

③遺産の評価を決定

不動産や自社株など評価が分かれる遺産について、評価額をいくらとするか決定します。
もし、相続人間で評価額の合意ができない場合、裁判所で鑑定を行い、評価額を定めることになります。

④各相続人の取得額を決定

②遺産の範囲及び③遺産の評価を前提に、各相続人の法定相続分に基づく取得額を確認し、そのうえで、特別受益や寄与分が認められる場合は、それらを反映して、各相続人の具体的な取得金額を決定します。

⑤遺産の分割方法を決定

④各相続人の取得額に基づき、遺産を現実に分けるのか(現実分割)、売却して分かるのか(換価分割)、誰かが取得し、別の相続人には取得額分を金銭で分配するのか(代償分割)など、分け方を決定します。
“参照”
裁判所ホームページ:「遺産分割調停の進め方」

以上の①~⑤順番に従い、相続人間で無事に協議が整った場合には、調停成立となり、裁判所で作成された調停調書に基づき、各種の相続手続を進めていくことが可能となります。

調停が不成立の場合には審判に移行する

調停でも相続人間で話合いがつかなかった場合、つまり、先程の①~⑤のいずれかの段階で合意ができなかった場合は、調停は不成立となり終了します。

調停が不成立となった場合は、通常、当然に審判手続に移行しますので、別途、審判の申立てをする必要はありません。

審判移行後は、裁判所より第1回の審判期日が指定されますので、同期日に当事者及び代理人が出頭します。

審判手続では、調停手続における双方の主張等を前提に争点の整理が行われ、必要に応じ、事実の調査を行います。そのうえで、審判日が指定されて、審理は終結します。通常は1~2回程度の期日で審理は終結されます。

審判日には、遺産をこう分けなさい、との裁判官の判断が下されます。これが「審判」です。審判の内容が一部の相続人の意向に沿わない場合もありますが、裁判官の判断により、遺産分割の具体的内容が決定されることになります。
審判は、告知により効力が生じるため、裁判所で作成された審判書が各相続人に交付されることで効力が生じます。

なお、もし審判の内容に対して不服がある場合は、審判の告知を受けた日から2週間以内に即時抗告を行い、審判内容を争うことができますが、判断が変わることはあまり多くありません。

Point 01 まずは、他の相続人に対し、遺産分割協議の申入れを行う

Point 02 話合いにより解決できない場合は、遺産分割調停を申し立てる

Point 03 調停が不成立となれば審判に移行し、審判に基づき遺産分割が行われる

まとめ

いかがでしたか。遺産分割の進め方としては、まずは遺産分割協議を行ってみて、協議が整わなければ遺産分割調停を申立て、調停不成立の場合には遺産分割審判での解決、と段階的に進んでいくことになります。

事例のケースでは、確かに長女との遺産分割はモメることが予想されますが、仮に長女側で生前贈与を受けているなどの事情がある場合、長女側からのアクションは期待できないので、長男側から何らかのアクションを起こさないと、遺産分割を実現できないものと思われます。

そこで、まずは遺産分割協議の申入れをしてみて、協議に応じる姿勢がまったく見られない場合には、経験上、淡々と調停・審判と手続を進めていった方が最終的な解決までも早いのではないかと思います。

明らかにモメることが予想される場合など、最初から弁護士が介入し、淡々と協議・調停・審判と進めていくのがよいケースもありますので、遺産分割の進め方についてお悩みの方は、まずは弁護士に相談されてみてはいかがでしょうか。

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