「個人事業主」と「フリーランス」についてこのような疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
どちらも正確な定義はあまり知られておらず、なかには二つを混同してしまっている方もいらっしゃるかもしれませんね。
実は個人事業主とフリーランスは全く異なる概念です。
そこで、この記事では個人事業主とフリーランスのそれぞれの定義と四つの違いを詳しく解説します。
また、個人事業主になるための手続きなどもご紹介していきますよ。
福留 正明
1.個人事業主とフリーランスの定義
近年会社員以外の働き方への関心が高まるなかで、「個人事業主」や「フリーランス」という言葉を使用する機会は増加しています。
しかし、これらの言葉の定義を正確に理解しているという方は案外少ないのではないでしょうか。
個人事業主とフリーランスの違いを解説する前に、まずはそれぞれの言葉の定義を確認しましょう。
1-1.個人事業主とは
個人事業主とは、「事業所得」を得ている個人を指す税法上の区分です。
ある仕事が「事業」であると認められるには、その仕事が「独立・継続・反復」して行われている必要があります。
また、「個人」とは「法人」の対になる言葉であり、文字通り「一人」を意味するわけではありません。
個人事業主として開業するためには、税務署に「開業届」を提出する必要があります。
1-2.フリーランスとは
フリーランスとは特定の会社や団体に所属せず、自らの技能を活かして仕事を請け負う「働き方」を指す言葉です。
企業と「雇用契約」を結ぶのではなく、プロジェクトやコンテンツごとに「業務委託契約」を行います。
特定の職種に限定されておらず、さまざまな分野にフリーランスとして働く人は存在します。
特にシステムエンジニアやデザイナー、ライターなどはフリーランスが多く活躍しています。
働き方を自らの裁量で決めることができるという自由度の高さが魅力です。
一方で、極端に忙しくなったり収入がほとんどなくなったりしてしまっても自分の責任において引き受けなければいけないというシビアな面もあります。
2.個人事業主とフリーランスの違い
個人事業主とフリーランスは「特定の企業や団体に属さない」という点で共通しており、混同されがちです。
しかし、個人事業主とフリーランスの概念は全く異なりま す。
具体的には以下の四つの違いがあります。
- 違い1 法人を設立した個人を含むかどうか
- 違い2 「仕事の請負」をしているかどうか
- 違い3 実店舗を営む個人を含むかどうか
- 違い4 従業員を雇う個人を含むかどうか
違い1 法人を設立した個人を含むかどうか
個人事業主とは法人を設立せずに事業所得を得ている個人を指す税法上の区分であることは既に確認しました。
言葉の定義上、法人を設立した個人は「個人事業主」には含まれません。
一方、法人を設立していてもしていなくても、特定の会社に属さない働き方を選択していれば「フリーランス」であるといえます。
個人事業主として働いていた方が法人を設立したとしても働き方自体は変わらないためです。
自身の技能を活かして企業から仕事を請け負っているフリーランスであっても、開業届を提出していなければ個人事業主ではないためです。
会社員として働きながら副業として企業と仕事をしている方はフリーランスではありますが、事業として独立していない場合は個人事業主とはいえません。
開業届を提出していない個人、個人事業主、法人とフリーランスの関係を図にすると以下のようになります。
違い2 「仕事の請負」をしているかどうか
フリーランスとは自分のスキルを活かして企業から仕事を請け負う働き方のことです。
一方、個人事業主の場合は必ずしも「仕事の請負」をしているとはいえない場合もあります。
飲食店を経営している個人事業主を例にとって考えてみましょう。
飲食店を経営する上で食料品店や酒屋から仕入れをしますが、これは食料品店や酒屋から仕事を請け負っているわけではありませんよね。
そのため、このケースは個人事業主ではあるがフリーランスではないといえます。
違い3 実店舗を営む個人を含むかどうか
内閣府や中小企業庁の定義では、「実店舗を持たない」ことがフリーランスの条件の一つとされています。
実店舗を持つ個人は個人事業主であり、フリーランスではありません。
実店舗を持っているということは、働く時間と場所がおおむね決まっているということです。
フリーランスの「自分の好きな時間に、好きな場所で働く」といったイメージとは異なりますよね。
一方、飲食店や小売店など実店舗を営む方は個人事業主に含まれます。
違い4 従業員を雇う個人を含むかどうか
内閣府や中小企業庁の定義では、「従業員を雇用している個人」はフリーランスには含まれません。
一方、個人事業主は従業員を雇用することができます。
個人事業主の「個人」は「法人」と対になる言葉であり、「法人を設立していない個人」を意味します。
個人事業主が従業員を雇う際は、以下の手続きが必要です。
- ・労働条件の通知
- ・労働保険(+雇用保険)に加入
- ・法廷三帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿等)を揃える
3.個人事業主とフリーランスに関する疑問
ここまで個人事業主とフリーランスそれぞれの定義と四つの違いを確認してきました。
ここからは、個人事業主とフリーランスに関する疑問を解決します。
まずは「個人事業主とフリーランスの違いは開業届の有無である」という両者の定義に関するありがちな誤解を正します。
また、フリーランスとして働いている方のなかで個人事業主になるべきかどうかお悩みの方もいらっしゃるでしょう。
「疑問2 フリーランスは個人事業主になるべき?」では、個人事業主になることで得られるメリットを詳しく解説します。
疑問1 違いは開業届の有無?
下記の表は開業届を提出していない個人、開業届を提出した個人をそれぞれ「個人事業主」「フリーランス」と呼ぶことができるかどうかをまとめたものです。
個人事業主 | フリーランス | |
---|---|---|
開業届無 | × | 〇 |
開業届有 | 〇 | 〇 |
個人事業主は開業届を提出する必要があるので、開業届を出していない個人は「個人事業主」とは認められません。
一方、開業届を提出していても、していなくても、特定の企業や団体に属さずに仕事を請け負っていれば「フリーランス」といえます。
そのため、「開業届を提出していなければフリーランス」という定義は誤り です。
疑問2 フリーランスは個人事業主になるべき?
このようにお悩みの方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
実際のところ、フリーランスとして働いている方が個人事業主になることで得られるメリットは少なくありません。
- ・青色申告ができる
- ・屋号付きの口座を開設できる
- ・個人事業主を対象とした給付金がもらえる
- ・社会的な信用が高まる など
個人事業主が享受できるメリットのうちもっとも大きいものは「青色申告ができること」です。
青色申告では最大で65万円を所得から控除できるため、節税効果がありますよ。
そのため、フリーランスとして働いている人はなるべく開業届を出した方が良いといえるでしょう。
開業届の作成をサポートしてくれる便利なサービスは「5-1.開業届作成サービス 」でご紹介します。
4.個人事業主になるために必要な手続き
個人事業主になることで得られるメリットを確認し、さっそく個人事業主になるための手続きをしたいとお考えの方もいらっしゃるでしょう。
ここからは、個人事業主になるために必要な手続きを時系列順に確認していきます。
手続きは以下の3段階で行います。
4-1.事業開始前にするべきこと
個人事業主として開業する前にするべきことは、個人事業主として独立するか、副業で個人事業主になるかによって異なります。
会社を退職して個人事業主として独立する方は、退職前に住宅ローンやクレジットカードの申し込みをしておくと良いでしょう。
残念ながら、個人事業主の社会的な信用は会社員に比べて低いのが現状です。
例え収入が同じであっても、個人事業主は会社員なら通る審査に落ちてしまったり、ローンを組める金額が下がったりしてしまうのです。
一方、副業で個人事業主になる場合は開業前に必ず会社の就業規則を確認しましょう。
なかには副業を禁止している会社もあります。
副業を禁じられているにもかかわらず無断で副業を始めることはトラブルのもととなるため避けましょう。
4-2.事業開始後すぐにするべきこと
事業を開始したら、まずは以下の書類を税務署に提出します。
- ・開業届 (正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」)
- ・(青色申告を希望する場合は)青色申告承認申請書
開業届をはじめ、提出するべき書類には提出期限があります。
開業届は事業開始日から1カ月以内、青色申告を希望する方は青色申告承認申請書を青色申告をしようとする年の3月15日まで、もしくは事業開始日から2カ月以内に提出しなければいけません。
開業届、青色申告承認申請書ともに最寄りの税務署でもらうか、国税庁のサイトからダウンロードしましょう。
また、必要に応じてその他の届出を提出します。
例えば家族を従業員として雇用しており、支払った所得を必要経費として計上するためには「青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書」が必要です。
従業員の給与から源泉徴収した所得税は本来月ごとに納付しますが、「源泉所得税納期の特例の承認に関する申請書」があれば納期を半年ごとに変更できます。
4-3.開業届提出後にするべきこと
会社員から個人事業主になる場合は、退職後14日以内に保険と年金の手続きを行いましょう。
- ・国民健康保険への加入
- ・厚生年金から国民年金への切り替え
- ・確定申告
一般的に、会社員や公務員などから個人事業主になった場合は個人事業主になると 同時に国民健康保険へ加入します。
国民健康保険への加入、国民年金への切り替えはともに最寄りの市区町村役所で行います。
また、個人事業主は一年間の所得を自ら計算・申告し、税金を納めます(確定申告)。
5.個人事業主・フリーランスへのおすすめサービス
と不安にお思いの方もいらっしゃるかもしれませんね。
ここからは、個人事業主やフリーランスの方におすすめのサービスをご紹介します。
事務作業にかかる時間を短縮することで、本業により時間を割くことが可能になりますよ。
5-1.開業届作成サービス
個人事業主になるにあたって最初の関門が開業届の提出です。
記入欄に何を書くのか、どこに提出するのかが分からずお困りの方もいらっしゃるでしょう。
そこでおすすめなのが以下の「開業届作成サービス」です。
これらのサービスでは画面の指示に従って質問に答えるだけで簡単に開業届を作成できます。
また、完成した開業届をどこに提出すればいいかも案内してくれます。
どちらも無料で利用できますよ。
5-2.請求書作成サービス
事業の発展に伴って取引先の数が増える場合もあります。
「複数の取引先に請求書を作って送る作業に時間を取られてしまう……」
このような方には「マネーフォワードクラウド請求書」がおすすめです。
フォームに沿って取引先や品目を入力するだけで、請求書の作成から送付までスピーディーに済ませることができますよ。
小規模事業者向けの「スモールビジネス」年額プランなら月額2,980円で利用できます。
5-3.会計ソフト
「確定申告のやり方が分からない……」
個人事業主になって日が浅い方はこのような心配をされているかもしれませんね。
「会計ソフト」を使えば、確定申告に慣れていない方でも迷わずに申告を済ませることができます。
これらのサービスのなかにはスマホアプリと連動しているものもあります。
移動時間や休憩時間など、日々の空き時間でスマホを利用して確定申告の準備ができますよ。
おすすめの会計ソフトについてはこちらの記事で詳しくご紹介しています。
6.まとめ
個人事業主とフリーランスは「企業と雇用契約を結ばない」という点で共通しており、非常に混同されがちです。
しかし、個人事業主は税法上の区分であるのに対し、フリーランスは働き方を指す言葉であり、二つの言葉の内容は四つの点で明確に異なります。
まず、フリーランスには法人を設立した個人が含まれますが、個人事業主には含まれません。
フリーランスが企業から仕事を請け負っているのに対して、個人事業主は必ずしも仕事を請け負っているわけではありません。
また、内閣府や中小企業庁では「フリーランスは実店舗を持たず、かつ従業員を雇用していない」と定義されています。
一方、実店舗を持っていたり、従業員を雇用していたりする個人も個人事業主に含まれます。
副業ではない独立したフリーランスとして活動している場合、個人事業主になることで税制メリットを受けられる方が少なくありません。