仕訳の際に必ず使うことになる勘定科目について、詳しくはよく分かっていないという方もいらっしゃるでしょう。
勘定科目を正しく理解することで、事業の状態を正確に把握し経営状況を改善することにつながる可能性があります。
それくらい重要な概念なのですね。
また、勘定科目の設定や仕訳を自動化してくれる会計ソフトとしては以下がおすすめです。
福留 正明
1.勘定科目とは
一言でいえば勘定科目とは日々の取引を帳簿に記入するときに用いるカテゴリのようなものだといえます。
例えば賃貸契約を交わすことは一般的には取引といいますが、簿記や会計においては財産が起こっていないため取引には当たりません。
また天災によって損害が生じた場合を一般的に取引ということはありませんが、財産が減っているため、簿記においては取引として扱います。
帳簿を付ける際には取引を資産・負債・純資産(資本)・収益・費用の5種類に分けて記録することになります。
- ・資産……所有している全ての財産。現金や預金、土地、建物など。
- ・負債……お金を支払わなければならない義務。買掛金、借入金など。
- ・純資産(資本)……事業の元手として用意したお金など返す必要のないもの。
- ・収益……もうけ、事業によって財産を増加させる要因。
- ・費用……収益を上げるために費やされたもの、財産を減少させる原因。
とはいえ単に「資産」などと帳簿に記載してしても、実際にどのような取引が行われたのか分かりません。
具体的な項目ごとの記録や計算の単位を「勘定」といいます。
例えば、事業で使う車を購入した場合は「車両運搬具」という勘定科目に振り分けられます。
なお取引を勘定科目に分類するためには、まず「仕訳」という作業が必要になります。
これは取引を資産・負債・純資産(資本)・収益・費用の5種類に分け、帳簿の借方と貸方に分解する作業のことです。
例えば営業用の車を200万円で現金で購入したときには、まず借方に車という資産が増えたこと、貸方に現金の減少が起こったことを書くべきだな、という判断が必要になります。
「営業用の車」に「車両運搬具」、支払ったお金に「現金」という勘定科目をそれぞれ当てはめて帳簿に記載すれば、勘定記入が完了するということですね。
2.勘定科目が必要とされる4つの理由
「勘定科目がどんなものなのかは分かったけど、正直仕訳にかかる手間をかかると面倒だし……」
「どうしてみんなが同じような勘定科目で仕訳をする必要があるんだろう?」
と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、もちろん勘定科目は会計処理をややこしくするために存在しているわけではありません。
ここからは、勘定科目が必要とされる四つの理由についてご説明していきます。
- 理由1 誰でも同じように帳簿を付けられる
- 理由2 経営の判断材料になる
- 理由3 利害関係者への経営状況の開示に役立つ
- 理由4 税金を計上する上で必須となる
理由1 誰でも同じように帳簿を付けられる
勘定科目が決められていることで、誰もが同じように帳簿を付けることができます。
もし勘定科目が定められておらず、個々人が好き勝手に仕訳をしていたらどうでしょう。
費用や収入を適切に把握することができず、何にお金を使われたのかが分からない帳簿になってしまいますよね。
理由2 経営の判断材料になる
勘定科目は取引の内容を明確にすることができるため、経営の判断材料にもなります。
科目ごとに記録された数字をもとに、「この科目はもっと削れるはず」「科目に費やしている分と実績が釣り合わないのではないか?」など、事業のこれからの方向性や改善点を検討することができます。
また、「財務諸表」と呼ばれる経営状況を判断したり外部に開示したりする書類を作成する際にも勘定科目は必須となります。
理由3 外部への経営状況の開示に役立つ
事業の決算時には、株主や債権者、税務署といった外部に対して経営状況を開示する必要があります。
決算の際には財務諸表が必要になりますが、財務諸表ではお金の出入りが適切な勘定科目に振り分けられている必要があるといえるでしょう。
逆にいえば、勘定科目を正しく理解して作成されていない書類は信頼性に欠けるということでもあります。
理由4 税金を計上する上で必須となる
事業に課せられる税金を計上する上でも勘定科目が使用されます。
勘定科目には税金に関わる科目や課税対象となる科目が存在するため、適切な納税額を把握するために勘定科目が必要となるのです。
例えば、個人事業主の方の確定申告の際には「租税公課」という勘定科目を使用することになっています。
3.勘定科目の種類はどれくらい?
ここまで勘定科目とはどんなものか、なぜ必要なのかをご説明してきましたが、
「一体勘定科目ってどれくらいの種類があるの?」
というのも気になるところですよね。
たくさん種類があって分かりづらそうというイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
3-1.代表的な勘定科目の種類
まず、よく使われる勘定科目をご紹介してきましょう。
- ・勘定科目1 租税公課
- ・勘定科目2 荷造運賃
- ・勘定科目3 水道光熱費
- ・勘定科目4 旅費交通費
- ・勘定科目5 通信費
- ・勘定科目6 広告宣伝費
- ・勘定科目7 接待交際費
- ・勘定科目8 損害保険料
- ・勘定科目9 修繕費
- ・勘定科目10 消耗品費
- ・勘定科目11 減価償却費
- ・勘定科目12 福利厚生費
- ・勘定科目13 給料賃金
- ・勘定科目14 外注工賃
- ・勘定科目15 利子割引料
- ・勘定科目16 地代家賃
- ・勘定科目17 貸倒金
- ・勘定科目18 雑費
- ・勘定科目19 専従者給与
- ・その他の勘定科目
事業の内容によって出入りするお金の種類が異なったり、勘定科目に設定するほどではない単発的な支出があったりするケースもありますよね。
そこで、「上記以外の勘定科目を自分で作ることも可能となっています。
しかしやみくもに勘定科目を作っていいというわけでもありません。
3-2.勘定科目の5分類
勘定科目は「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」という五つのグループに分けられます。
この5つの概念を知っておくと、勘定科目に対する理解もぐっと深まるはずです。
3-2-1.資産
資産のグループには会社が所有する財産が該当します。
資産には形のある「有形資産」と目に見えない資産である「無形資産」がありますが、どちらもこの資産のグループに分類されます。
- ・現金
- ・普通預金
- ・定期預金
- ・当座預金
- ・現金過不足
- ・売掛金
- ・受取手形
- ・立替金
- ・未収金 など
3-2-2.負債
支払の義務があるものは負債のグループに分類されます。
支払期限が決算日の翌日から起算して1年以内のものを「短期借入金」、1年を超えるものを「長期借入金」という科目名とします。
- ・買掛金
- ・未払金
- ・借入金
- ・支払手形
- ・貸倒引当金
- ・前受金
- ・預り金
- ・仮受金 など
3-2-3.純資産
純資産には資本金や元入金などの事業における元手を計上します。
経営者本人の資本金だけでなく他者から受け取ったお金であっても純資産に当たります。
- ・資本金
- ・資本準備金
- ・元入金
- ・利益剰余金
- ・繰越利益余剰金 など
3-2-4.費用
費用とは収益を得るために費やしたお金のことです。
ここで注意しておくべきポイントは、「収益を得るために費やした」出費のみがこの科目に当てはまるということです。
企業の出費全てが費用になるとは限らないので気を付けましょう。
- ・仕入高
- ・期首商品棚卸高、期末商品棚卸高
- ・給料手当
- ・役員報酬
- ・交際費
- ・会議費
- ・法定福利費
- ・福利厚生費
- ・外注費
- ・広告宣伝費
- ・水道光熱費
- ・地代家賃
- ・事務用品費
- ・通信費
- ・租税公課
- ・支払利息
- ・修繕費
- ・減価償却費 など
3-2-5.収益
収益には事業活動により得た収入を計上しましょう。
- ・売上
- ・受取利息
- ・受取配当金
- ・有価証券評価益、有価証券評価損
- ・雑収入 など
4.勘定科目を使って仕訳する際の2大注意点
日々の取引を抜け漏れなく仕訳できているか、金額や勘定科目を誤っていないかなど、仕訳をする際には気を付けるべきポイントがたくさんありますよね。
なかでも、特に勘定科目に関して注意しなければならない点が二つあります。
注意点1 部外者にも理解できるように設定する
勘定科目は必ず部外者にも理解できるように設定する必要があります。
実は勘定科目には「これはこの勘定科目を使う」という厳密なルールはなく、記録する側が自由に決めることができます。
また、自分で新しい科目を作成することも可能です。
同じ内容の取引でも企業や事業主によって違う勘定科目で処理しているケースも存在しています。
しかし、だからといって適当な勘定科目を作ったり、その場限りの社内ルールを作ったりして仕訳をしてはいけません。
必ず部外者にも理解できるような勘定科目の使い分けをしましょう。
また新しい科目を作成する際にも、それが「資産・負債・純資産・収益・費用」の五つの分類から外れないように意識してみてくださいね。
注意点2 仕訳に一貫性を持たせる
部外者にも理解できる勘定科目の使い方をするためには、仕訳に一貫性を持たせる必要があるということです。
一度使った勘定科目はそれ以降も継続して使用しなければならない、という「継続性の原則」があります。
気軽に勘定科目を変更してしまうと事業の状況が正確に把握できなくなるという大きなリスクがあります。
5.勘定科目の設定や仕訳を簡単にする方法は?
「勘定科目の重要さは分かったけど、仕訳の面倒くささは変わらないよなあ……」
日々の仕訳作業は正直気が重い、という方も多いでしょう。
勘定科目の設定や仕訳を簡単に行う一つの方法として、会計ソフトを導入するという選択肢が挙げられます。
会計ソフトについて詳しくはこちらの記事で解説しています。
おすすめ1 freee
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2023年に開始した「インボイス制度」や取引の書類を電子データで保存する際の要件を定めた「電子帳簿保存法」の改正にも対応しているので、安心ですよ。
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なお自動アップデートによりインボイス制度や電子帳簿保存法の改正にも対応しているので、最新の状態で会計処理を行えます。
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弥生会計の強みは何といっても初心者にやさしい設計にあります。
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決算書の作成も自動で行われるので経理業務を効率化したい方にはぴったりですよね。
また、法人向けのプランは全て初年度無料で利用することができます。
なお随時自動でアップデートがされるので、インボイス制度や電子帳簿保存法の改正にも対応していますよ。
6.まとめ
勘定科目は発生した取引の内容を明確にし、誰もがその内容を把握できるようにするための重要な役割を持つものです。
決め方にルールはありませんが、勘定科目の性質を損なわないように「資産・負債・純資産・収益・費用」の五つのグループから外れないように設定しましょう。
資産・負債・純資産・収益・費用について知ると、勘定科目についても理解が深まることでしょう。
勘定科目を使った仕訳は地道な作業ですが、事業の状態を正しく把握するためには必要不可欠なものです。
導入コストの低い会計ソフトを利用して効率化を図るなど、工夫しながら仕訳作業を進めてみてくださいね。