父が死んだ。

87歳だった。

お酒が何よりも好きでいつも笑っていた父は、最後は静かに病院で息を引き取った。

これから葬式や死亡届け出の手続きが必要です

突然、お医者さんに言われた。

悲しくてまともに頭が働かないけど、期限もあるらしく
そうもいっていられない状況みたいだった。

考える力が鈍った中で必死に聞き取ったことを
家に帰ってから詳しくパソコンで調べた。

葬式・死亡届け出や契約を解約・・・など
やることはたくさんあるらしい。

言われてみたら人は色んなものを抱えているから
当然かと妙に納得した。

ただ、どうしたらいいかはよくわからなかった。

市役所にどうやって出せばいいのか、準備するものは何か。
わかるようでわからなかった。

毎日、本やインターネットを調べながら
葬儀や手続きもすべて済ませた。

ふう、これで一安心。もう元の生活に戻れる

49日も終わって、そう安心していると、ある日突然「相続税申告の手引き」が税務署から送られてきた。

相続税申告?

国が発行する独特の堅い文章を必死に読み進め
3日かかってやっと相続でやらないといけないことがわかった。

要するに私は相続税の申告をしなければならず、
税金の計算を自分でやって書類を書き、提出しなければいけないらしい。

税金の計算なので、税理士を雇って申告をする人もいるらしい。

私は相続した財産は少ないので自分で申告書を記載するだけで大丈夫だと判断した。

国税庁のホームページを調べてみても申告書は15枚しかなく
全部書く必要もないみたいだった。

相続税には期限もあるらしいけど、なんとかなりそう。

今まで確定申告のようにやらないといけないことはあったけど
全部どうにかなったし、相続税も大丈夫だろう。

ホームページや本を調べると、大変だったけど、3か月かけて何とか申告書を書き終えることができた。

私が相続したのは土地と現金だけで、税務署に質問をしたら丁寧に教えてくれたのでスムーズに進められた。

相続税の申告書を税務署に提出して、いつも私が使っている銀行から税金を支払った。

やっと終わった・・・。大変だったけど、やっぱりなんとかなった。

・・・しかし後に、たった一本の電話で、頑張った努力は全て無駄で、地の底に叩き付けられる思いをするとは思っていなかった。

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~2年後

ルルルルル・・・

電話だ。

うちに電話してくるのは、兄弟か同窓会の連絡か。
久しぶりの連絡だと思うと少しばかり気分があがりながら電話に出る

もしもし

突然のお電話すみません。税務署の佐々木と申します。以前提出していただいた相続税申告書に“誤り”がありましたので、1週間以内に税務調査にお伺いさせていただきたいのですが

はい?税務調査?私が?なんで?

申告書の作成をご自身でされたと思いますが、計算の根拠や過去5年間の預金の移動から、計算が合わない部分がありまして。“脱税”の可能性もありますので、一度お話をお聞かせください。

相続税申告のことはすっかり忘れていたころに来た、突然の税務署からの電話。

顔面蒼白だった

脱税・・罰金、犯罪者扱い?
あんなに頑張って真面目に申告書も書いた。
税金も払ったのにまるで悪いことしたみたいじゃないか

気が気ではなかった、なんとか理性をもって税務署の方とお話をしたけど
内容はほとんど覚えていない。

1週間後の14時に家に来て、話をするということだけはわかった。

不安と焦りでいっぱいで調べても何をしたらいいかわからず
頭はずっと混乱していた。

わけもわからないまま税務調査の日がやってきた。

ピンポーン

14時ぴったり。
税務署の人だ。

何かあったらいけないと、丁寧にお出迎えした先にいたのは
ブスっとした顔でまるで私を犯罪者のように見下す
高圧的な態度の調査官2名だった。

緊張した空気が張り詰める中、さっそく調査が始まった。

この土地の評価は誤りです

この特例の適用についての要件の検討ができていません

添付資料が不足しています

亡くなられる前のこの100万円の出金は何ですか?

矢継ぎ早の質問、指摘の応酬…

指摘されたことはほとんど理解できなかった。

評価が誤り?
添付資料?
過去の入出金?

そもそもなぜそれが必要なのかもわからないので
あいまいな返事をして対応するのが精いっぱいだった。

事前の準備不足が祟り、父が無くなる直前に口座から引き出されていた300万円について説明ができず、追徴課税された。

最終的には追加の納税額150万円と30万円のペナルティが決定。

一番面倒だと感じたのが、その場でお金を支払えばいいのではなく
まず申告書を修正して再提出しなければいけないということだった。

さらに驚愕だったのは、支払い期限はないけど、次の日から“延滞税”がかかること。

申告書を作成するのが長引けば長引くほど、支払う額が上がっていく仕組みで、こちらが真面目にやったかどうかは全く関係ない。

あの大変だった申告書をまた作成し直さないといけない、だけど何をしたらいいかわからない
でもその間にも絶えず“延滞税”の利息が付き、支払う額が増えていく。

悪循環サイクルに入り、八方ふさがりの絶望状態で“人生で最も最悪な日” の一つになるであろう税務調査の1日が終わった。

このような失敗をしないために専門家からのアドバイス

相続税申告は、税法の勉強をしている税理士でさえ難しいと言われています。相続税申告を適切に行うには、「相続税法」「相続税法施行令」「相続税法施行規則」「相続税基本通達」「財産評価基本通達」こういった様々な法律やルールを完璧に理解している必要があります。税務署からの手引きや入門書を数冊読んだ程度でとうてい理解できるものではありません。

税務調査において、「このルールは知らなかった」は通用しません。「法律は無知を救済しない」と言われています。また、相続税申告は多くの場合、一人で行うものではなく、他の相続人の分も合わせて行います。自分だけの問題ではなく相続人全員の問題となりますので代表相続人の方の責任は重大です。

なお、このような事例で、被相続人が直前に引き出した預金の使途が仮に相続人が説明できなかったからといって、実はそれに対して相続税を支払う必要はありません。相続人が引き出してポケットに入れて至り、自宅の金庫に現金があれば話があれば別ですが、亡くなった被相続人が自分で行った出金の使途を相続人が知らなくても不思議ではありません。

事例のような結論にならないように、相続税申告は自分で行わずにプロである税理士に依頼されることを強くお勧め致します。

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