#89 [不動産小口化商品を用いた相続対策] 生前贈与

2023.01.20

相続の対象となる財産を存命中に少しずつ譲り渡す「生前贈与」

資産をできるだけ減らさずに次の代へ受け継がせる相続対策としては、①相続税評価額が低くなる一方で実質的な価値が高まる資産へシフトする、②相続の対象となる資産を存命中にできるだけ減らしておくという手が考えられます。これからスポットを当てる「生前贈与」は、②の具体策となるものです。

その名称の通り、存命中に財産を先々で相続人となる人たちに分け与える(贈与する)のが「生前贈与」です。首尾よく次の代への財産移転を進めておけば、その分だけ相続税の負担を抑えられますし、将来的に相続人となる人が贈与された資産を蓄えておけば、納税資金も確保できます。

このように相続対策に効果的な「生前贈与」ですが、大きな注意点もあります。年間に所定の金額を超える贈与を行うと、最高で55%に達する贈与税が課されるのです。
では、贈与税のボーダーラインとはどのように定められているのでしょうか? その「基礎控除(非課税となる贈与額)」は1人当たり年間110万円と定められており、これを超えた分に対し、金額に応じて高い税率が課される贈与税が適用されます。

パターン化した「生前贈与」を続けると、非課税枠内でも贈与税が!

もう一つ、注意を払っておくべきポイントがあります。非課税枠の年間110万円以内にとどめていても、毎年同じ時期に同額の贈与を繰り返していると、税務当局から「定期贈与」と判断され、贈与税が課される可能性があるのです。

これでは、相続税の課税対象となる資産を減らせたとしても、贈与税を納めることでその効果が帳消しとなりかねません。「定期贈与」とみなされないためにも、「生前贈与」を行う度に贈与契約書を作成して押印するのが無難です。

加えて、どのような資産の「生前贈与」を行うのかというポイントも重要となってきます。時価による評価では同じ価値であったとしても、現金と不動産では贈与税の負担が大きく変わってくるのです。

結論から言えば、現金を用いた「生前贈与」は不動産を用いるケースと比べて不利です。パターン化した「生前贈与」を「定期贈与」とみなされる点は現金と共通していますが、不動産と同様の税制が適用される「任意組合型」や「賃貸型」の不動産小口化商品を用いれば、有利で円滑な相続対策を進められます。

現金と比べて税負担がはるかに軽い不動産の「生前贈与」

不動産に課す贈与税を計算する際も相続税の場合と同様に、土地と建物に分けて評価が行われます。土地については「路線価」に基づいて評価され、一般的には実勢価格の80%程度と査定されます(路線価が定められていない市街化調整区域などでは固定資産税評価額に所定の倍率を乗じて計算)。そして、建物は「固定資産税評価額」に基づいて評価し、こちらは実際の建築費の6割程度の算定となるのが一般的です。

さらに、賃貸マンションなどのように他人に貸し出していると、贈与税を計算する際の評価額がいっそう低くなります。自己利用のケースに対し、土地については8割程度、建物については7割程度と評価されるのです。

やはり、「任意組合型」や「賃貸型」の不動産小口化商品にも同様の税制が適用されます。その結果、贈与税の「基礎控除(1人当たり年間110万円)」を超える資産価値の「不動産小口化商品」を譲り渡していたとしても、現金と比べてはるかに税負担が軽くなるわけです。

不動産小口化商品なら「基礎控除」を超えても税負担が軽い

現金と比べて不動産小口化商品を用いた「生前贈与」がどれほど有利なのかについて、具体例を用いて検証してみましょう。

まず、2人の子どもに現金を500万円ずつ、合計で年間1000万円の「生前贈与」を行った場合、「基礎控除」を差し引いた後の課税価格は390万円で、1人当たり「390万円×15% -10万円(控除額)=48・5万円」の贈与税が課されることになります。

これに対し、2人の子どもにそれぞれ500万円相当の不動産小口化商品の「生前贈与」を行い、贈与税を計算する際の評価額が150万円だった場合、「基礎控除」を差し引いた後の課税価格は40万円となります。すると、1人当たりの贈与税は「40万円×10%=4万円」にとどまります。この程度の課税で済むなら、あえて「基礎控除」を超える範囲で「生前贈与」を進め、相続税の課税対象となる資産を減らしておくのが得策だというケースも出てきます。

もちろん、贈与税の「基礎控除」枠内にとどめる「生前贈与」も非常に有効な相続対策です。たとえば、1100万円の現金を贈与すると、990万円に対して贈与税が課されることになります。

ところが、相続税評価額が実勢価格の3割まで減額される不動産小口化商品1100万円分に換えれば、330万円の贈与とみなされます。これを一度に贈与せず、「基礎控除」の枠内にとどめても、わずか3年で1100万円相当の資産を非課税で承継させられるのです。

不動産小口化商品を所有中に相続が発生した場合も節税効果が!

このように、不動産小口化商品を用いた「生前贈与」は現金を贈与するケースと比べて明らかに有利です。しかも、まだ「生前贈与」のために購入した不動産小口化商品を所有中に相続が発生(被相続人が死去)した場合も節税効果を期待できます。

なぜなら、相続税の計算時においても不動産の評価額は実勢価格よりもかなり低くなるからです。贈与税の場合と同じく、土地と建物ともに相続税計算時の評価額は時価よりも大幅に下がり、同じ資産価値の現金を相続するケースと比べて税負担がかなり軽くなります。

加えて、所定の条件を満たして「小規模宅地等の特例」が適用されれば、さらに相続税評価額から一定割合が減額されます。「任意組合型」や「賃貸型」の不動産小口化商品も同特例の対象で、「貸付事業用宅地等」として、200平方メートルまでの土地に対する評価額を50%減額できます。

現金と不動産小口化商品では、相続税の負担がどれだけ違ってくるのかについて、具体例で比較してみることにしましょう。たとえば、相続財産が現金・預貯金3億円のみで3人の法定相続人(妻と2人の子ども)というケースだったとしたら、「基礎控除(3000万円+600万円×3人=4800万円)」を差し引いた2億5200万円に相続税が課されます。

3億円の現金を「法定相続分」に従って分け合った場合、その2分の1を受け取る妻に課せられる相続税は2860万円ですが、配偶者控除を適用できれば妻は税負担を免れられます。しかしながら、残る2分の1を均等に分け合う2人の子どもはそれぞれ1430万円の税金を納めることになります。

一方、3億円の相続財産が自宅や不動産小口化商品で「小規模宅地等の特例」が適用された場合は、相続税の負担がはるかに軽くなります。たとえば、それらの実勢価格が3億円だったとしても、相続税評価額がその3割に相当する9000万円と査定されれば、課税対象額は4200万円になります。
このケースでは妻への課税額が240万円(配偶者控除を適用できれば税負担なし)で、2人の子どもは120万円ずつの税負担で済みます。このように、不動産小口化商品を所有中に相続が発生した場合も大きな節税効果を期待できるわけです。

税務調査で否認されるケースもありうる点には注意を!

ここまで述べてきたように、相続税や贈与税の節税効果を期待できるのが不動産小口化商品の大きな魅力です。しかしながら、土地の相続税評価に「路線価」を適用することが認められないケースが発生していることには留意すべきでしょう。

現に2022年の4月19日の最高裁による判決で、相続人側の主張が棄却されました。この納税者に資産を遺した被相続人は、相続は発生する3年前に東京都の東京都と神奈川県のマンション2棟合計13億8700万円を取得していました。

そして、遺産を承継した相続人は「路線価」を適用し約3億3400万円として「相続税はゼロ」と税務署に申告しました。これに対し、国税当局は、路線価による評価が安すぎると問題視をし、独自に不動産鑑定士による再評価を行い、計12億7300万円と算出。3億円越えの追加課税を行いました。

最高裁は、納税者が申告した相続税評価額に対し実勢価格や鑑定評価額が4倍程度もかい離していたことや、相続税負担がゼロ円だったこと、明らかに節税対策のみを目的とした不動産購入だったことが判決に影響したようです。

税務当局に露骨な節税行為だと疑われないためには?

先述した判決のみならず、あからさまな相続税の節税対策に対しては税務当局が厳しく取り締まっているというのが最近の傾向です。税務署からあらぬ疑いをかけられないためにも、不動産小口化商品を相続対策に活用するうえでは以下の4点は避けたほうがよさそうです。

① 購入後すぐ(少なくとも購入した年)に贈与するのは避ける
② 相続直前の購入は避ける(特に重い疾病を煩っている場合は疑われやすい)
③ 相続直後の売却は避ける(申告書の提出から1〜2年以内は避ける)
④ 節税だけを目的とした投資は避ける

もちろん、税務署に睨まれなかったとしても、得られたのは節税効果だけで相対的に分配金の利回りが低かったり、その資産価値低下が著しかったりしては本末転倒です。数ある不動産小口化商品の中から、受け継いだ相続人から喜ばれるものを選りすぐることが重要となってきます。