「所有する不動産を子どもではなく孫に相続したい」と考えている方もいます。
孫に不動産を相続することは可能です。ただし注意点があり、それを知らずに不動産を孫に相続させようとすると家族間でのトラブルに発展しかねません。
本記事では、孫に不動産を相続する方法や注意点をわかりやすく解説します。
目次
孫に不動産を相続するのは難しい
何の対策もしなければ、孫に不動産を相続するのは難しいでしょう。孫は、民法が定める範囲の相続人(法定相続人)に含まれないためです。
遺言がないとき、被相続人の遺産は民法で定められた範囲の相続人(法定相続人)が相続します。 亡くなった人(被相続人)の配偶者は、常に法定相続人となります。配偶者以外の法定相続人の優先順位は以下の通りです。
法定相続の順位 | 相続人 |
第1順位 | 被相続人の子ども |
第2順位 | 被相続人の親・祖父母 |
第3順位 | 被相続人の兄弟姉妹 |
このように孫は法定相続人に含まれていません。そのため相続人に子どもが含まれていると、孫に遺産は相続されないのです。
ただし、法定相続人である子どもが亡くなっていたときは、孫は遺産を代襲相続できます。また、相続が開始されてから、遺産分割協議が終わるまでのあいだに相続人である子どもが死亡したときは、数次相続が発生し孫が遺産を相続できます。
孫に不動産を相続する方法
代襲相続と数次相続以外で孫に不動産を相続する方法は、以下の通りです。
● 遺言書で指定する
● 孫と養子縁組をする
孫に不動産を相続する方法①遺言書で指定する
相続では、亡くなった人の意思がもっとも尊重されるため、相続人同士が遺産の分け方を話し合って決める法定相続よりも、遺言が優先されるとされています。
遺言によって、不動産をはじめとした財産を相続人以外の人に送ることを「遺贈」といいます。遺言書を作成し、所有する不動産を孫に遺贈するのも選択肢の一つです。
遺言書は、法律に定められた形式に沿って作成しなければなりません。ルールに従って作成されていない遺言書は、無効になってしまいます。例えば「遺言者の署名」「押印」「遺言書を作成した日」のいずれか1つでも記載がない遺言書は無効です。
また遺言書に不動産について記載するときは、最新の登記事項証明書を取得し以下の項目を記載する必要があります。
● 土地:所在・地番・地目・地積
● 建物:所在・家屋番号・構造・床面積
遺言書で不動産を相続する方法や注意点、遺言書の種類については、以下の記事もご覧ください。
≪遺言で不動産を相続する方法とは?遺言書の種類や作成時の注意点≫
孫に不動産を相続する方法②孫と養子縁組をする
不動産を引き継ぎたい孫と養子縁組をするのも方法の1つです。養子縁組をした孫は、子どもとして法定相続人となるため、不動産を相続できる可能性があります。
また孫と養子縁組すると、相続税の節税効果を高められることがあります。相続税には基礎控除があり、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」までの遺産については課税されません。孫と養子縁組をすると法定相続人の数が増えるため、相続税の基礎控除額が増えて、税負担を軽減できます。
また、子どもから養子縁組した孫への相続が発生しなくなるため、相続税が課せられるのも1回で済みます。親から子ども、子どもから孫へと2回相続が発生したときよりも、相続税の負担を抑えられる可能性があるのです。
手続きは、基本的に役所に養子縁組届を提出するだけですが、養子となる孫の同意が必要です。仮に養親になる人と養子になる孫の苗字が違う場合は、原則として養子の苗字が変更されます。自分の苗字が変わることに抵抗を感じると、養子縁組に同意してくれないことがあります。
孫に不動産を生前贈与するのも方法
孫に不動産を相続するのではなく、生前贈与する方法もあります。生前贈与であれば、孫の承諾を得ることで確実に不動産を渡すことが可能です。
ただし、1月1日から同じ年の12月31日までに贈与された財産の額が110万円を超えてしまうと、贈与税の課税対象となります。そこで生前に不動産を贈与するのであれば「相続時精算課税制度」を利用するのも方法です。
相続時精算課税制度は、60歳以上の両親や祖父母が、20歳以上の子どもや孫に対して贈与するときに選択できる制度です。相続時精算課税制度を利用すると、2,500万円までの財産を何度でも非課税で贈与できます。その代わり、贈与された財産は相続税の課税対象となります。2,500万円を超える贈与については、一律で20%の贈与税が課税されますが、相続税を計算するときに支払った贈与税額は控除されます。
相続時精算課税制度で贈与された財産は、相続税を計算するときに贈与されたときの価値で評価されます。将来的に価値の上昇が見込める不動産を孫に贈与したいのであれば、相続時精算課税制度を使って生前贈与するのも方法でしょう。
相続時精算課税制度の注意点
相続時精算課税制度を選択すると、贈与税の基礎控除額110万円は使えなくなります。選択後は自動で継続され、取り消せません。そのため、基礎控除額110万円の範囲内で、毎年贈与を繰り返す「暦年贈与」ができなくなる点に注意が必要です。
また相続税精算課税制度を利用して贈与した不動産は、相続税の計算時に小規模宅地等の特例が適用されません。小規模宅地等の特例とは、亡くなった人が済んでいた土地や、賃貸経営をはじめとした事業を営んでいた土地を相続したとき、土地の評価額が一定の限度面積まで最大80%減額される制度です。
不動産を贈与するときは、相続したときとどちらが有利になるのか確認したうえで判断しましょう。 相続時精算課税制度で不動産を贈与するメリットや注意点などは、以下の記事をご覧ください。
≪相続時精算課税制度を利用して不動産を贈与するメリットとは?≫
孫に不動産を相続するときの注意点
孫に不動産を相続するときは、以下の4点に注意が必要です。
● 必ず孫に不動産を相続できるとは限らない
● 「遺留分」を侵害しないようにする
● 2割加算の対象になる
● 孫が代襲相続できないケースがある
必ず孫に不動産を相続できるとは限らない
孫を養子にしたり代襲相続が発生したりしても、不動産が必ず孫に引き継がれるわけではありません。亡くなった人に配偶者や他の子どもがいる場合は、遺言がなければ相続人同士で協議をして遺産の分け方を決めるためです。
遺産の分け方は、遺産を分割する際の目安である法定相続分をもとに決めるのが一般的です。法定相続分は、以下のとおり相続人の状況によって異なります。
相続人 | 法定相続分 |
配偶者のみ | 遺産のすべて |
配偶者+子 | 配偶者:遺産の1/2
子:遺産の1/2 |
配偶者+父母・祖父母など | 配偶者:遺産の2/3
父母・祖父母など:遺産の1/3 |
配偶者+兄弟姉妹 | 配偶者:遺産の3/4
兄弟姉妹:1/4 |
例えば、相続人が配偶者、長男、養子にした孫の3人であるとき、法定相続分は配偶者1/2、長男1/4、養子の孫1/4となります。
孫に相続したいと考えている不動産の価格が、遺産の1/4以下であれば、孫に不動産が相続される可能性があります。しかし不動産の価格が1/4を超えていたり、遺産の大半を占めていたりすると、孫がその不動産を相続するのは難しいでしょう。
「遺留分」を侵害しないようにする
遺言書に孫に不動産を引き継ぐ旨を記載したとしても、必ずその通りになるとは限りません。亡くなった人の兄弟姉妹以外の相続人には、法律によって最低限保障された遺産取得分である「遺留分」を請求できる権利があるためです。遺留分の割合は、以下の通りです。
相続人 | 法定相続分 | 遺留分 |
配偶者のみ | 遺産のすべて | 遺産の1/2 |
配偶者+子 | 配偶者:遺産の1/2
子:遺産の1/2 |
配偶者:遺産の1/4
子:遺産の1/4 |
配偶者
+父母・祖父母など |
配偶者:遺産の2/3
父母・祖父母など:遺産の1/3 |
配偶者:遺産の1/3
父母・祖父母など:遺産の1/6 |
子のみ | 遺産のすべて | 遺産の1/2 |
父母のみ | 遺産のすべて | 遺産の1/3 |
例えば、法定相続人が配偶者と子どもの合計2人、遺産の合計が1億円、そのうちの6,000万円が賃貸マンションであるとしましょう。遺留分は、配偶者は1億円×1/4=2,500万円、子どもは1億円×1/4=2,500万円となります。
遺言書に「賃貸マンションを孫に遺贈する」と記載した場合、配偶者と子どもが相続できる遺産は、合計4,000万円に減ってしまいます。仮に配偶者が2,500万円の遺産を相続したとき、子どもは1,500万円しか相続できず、遺留分を1,000万円侵害されてしまいます。そこで子どもは、孫に遺留分侵害額請求をすることで、1,000万円を支払ってもらえるのです。
孫が1,000万円の現金を用意できなければ、引き継いだ不動産を売却することになるでしょう。また、配偶者や子どもが遺言の内容に納得できない場合、調停や訴訟に発展する可能性もあります。
2割加算の対象になる
孫に財産を相続すると、孫は相続税額の2割加算の対象となる場合があります。相続税額の2割加算とは、相続または遺贈などで、亡くなった人の一親等の血族(両親、子どもなど)や配偶者以外の人が財産を取得したとき、相続税額が2割増しとなる制度です。
亡くなった人の養子は、通常であれば相続税の2割加算の対象となりませんが、養子が孫であった場合は対象となります。また、相続だけでなく遺言による遺贈や相続時精算課税制度を利用した贈与も、2割加算の対象です。
ただし相続の開始時点で子どもが亡くなっており、代襲相続で孫が相続したのであれば2割加算は適用されません。
孫が代襲相続できないケースがある
相続人である子どもが相続の開始時点ですでに亡くなっているとき、孫への代襲相続が発生します。しかし、亡くなった子どもが養子である場合、代襲相続が発生しないケースがある点に注意が必要です。
具体的には、子どもが亡くなった人と養子縁組をする前に生まれた孫は、代襲相続人になれません。一方で、子どもが養子縁組をしたあとに生まれた孫は、代襲相続人になれます。
また、子どもが相続放棄をしたときは、孫への代襲相続が発生しません。相続放棄をした子どもが引き継ぐはずであった遺産分は、孫ではなく他の相続人のあいだで分けられることとなります。
まとめ
孫は、法律が定める相続人に含まれません。そのため孫に不動産を相続したいのであれば、遺言書の作成や養子縁組といった対策が必要になります。不動産を、生前贈与するのも方法でしょう。
しかし、遺言を作成したとしても、相続人が遺留分を主張しトラブルに発展する可能性があります。また、代襲相続以外で孫が不動産を取得すると、相続税額が2割増しとなります。
相続について考えるときは、権利や税金なども考慮しなければなりません。孫に不動産を相続させたいのであれば、弁護士または司法書士に相談することが大切です。