2020年(令和2年)12月に公表された令和3年度税制改正大綱には「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直す」と掲載されました。※出典:令和3年度税制改正大綱
税制改正大綱は、簡単にいえば翌年4月の法律改正のたたき台です。令和3年度の税制改正大綱に相続税と贈与税の一体化を本格的に検討すると記載されたことで、早ければ2021年(令和3年)12月10日の「令和4年度税制改正大綱」で、具体的な改正案が発表されるとみられていました。
本記事では、令和4年度税制改正大綱に掲載された情報をもとに、相続税と贈与税の一体化が検討される背景や改正点などをわかりやすく解説していきます。
目次
令和4年に相続税と贈与税は一体化されるのか
2021年(令和3年)12月に公表された令和4年度税制改正大綱では、具体的な改正案は発表されず、前年とほぼ同じ内容が記載されました。しかしこれは、相続税と贈与税の一体化が令和4年でも引き続き検討されることを意味します。
では、なぜ相続税と贈与税を一体化する必要があるのでしょうか?現行の相続税と贈与税の仕組みやそれぞれの存在意義、今後の課題に分けて解説します。
現行の相続税と贈与税
相続税は、一定額以上の遺産を相続した人に課せられる税金です。法律によって定められた割合通りに分けたときの遺産が多いほど、税率は高くなります。そこで、生きているうちに財産を贈与(生前贈与)すると、相続財産が減って相続税の負担を軽減できます。
ただし暦年(1月1日から12月31日)で贈与された財産が、110万円を超えると贈与税が課せられます(暦年課税)。そこで、相続税の負担を軽減するために、生前贈与をするときは、年間で110万円以内の贈与を繰り返す「暦年贈与」が行われるのです。
また、60歳以上の父母や祖父母から、20歳以上(令和4年4月以降18歳以上)の子どもや孫へ贈与をするときは「相続時精算課税制度」の選択が可能です。相続時精算課税制度では、累計で2,500万円までの財産を何度でも非課税で贈与できる代わりに、遺産を相続したとき、非課税で贈与された財産を含めたうえで相続税を計算します。
相続税と贈与税の存在意義と課題
相続税と贈与税は、資産が一部の富裕層にかたよらないよう、再分配する重要な役割を果たしています。また相続税の負担を減らすための贈与を防止するために、贈与税率は高く設定されています。
しかし富裕層は、贈与税がかからない範囲で財産を分割で贈与し、相続税の負担を抑えているのが実情です。相続税と贈与税が、資産を再分配する仕組みとして適切に機能しなければ、親が受けていた所得格差が、子どもや孫にもそのまま引き継がれることになり、格差の固定化につながる恐れがあります。
そこで、相続税と贈与税が富を再分配する仕組みとして機能するよう、諸外国の制度も参考にしながら税制の一体化が検討されているのです。
諸外国の税制
日本においては、相続開始前の3年間に贈与された財産を相続財産に加えて相続税を計算します。そのため相続が近いと考えて、急いで家族に財産を贈与しても、相続税の節税効果はあまり得られません。
一方で諸外国では、日本よりも加算の対象となる期間が長く設定されています。例えばイギリスでは、相続開始前の7年間、フランスでは相続開始前の15年間で贈与された財産も加算されて相続税が計算されます。
またアメリカでは、一生涯にわたって贈与された財産と、相続によって取得した財産の合計額が一定金額を超えるときに課税の対象となります。つまり相続税と贈与税が完全に一体となっているのです。
相続税と贈与税はどう改正される?
日本において、いきなり相続税と贈与税が一体化される可能性は低いでしょう。制度を大きく変更すると、国民の反感を招きかねないためです。
その一方で諸外国を参考にするのであれば、相続税の課税対象となるのが、相続開始前3年以内の贈与から10年以内や15年以内などに延長されると考えられます。もしくは、暦年贈与の仕組みを廃止して、相続時精算課税制度に一本化し、実質的に贈与税のほぼすべてが相続税に統合される可能性もあります。
また、現行では相続税の3年内加算ルールの対象となるのは、基本的に相続や遺贈によって財産を取得した相続人です。孫やひ孫など、遺産を相続しなかった人は、相続開始前3年内加算ルールが適用されません。それが改正後は、相続開始前の一定期間内であれば、孫やひ孫への贈与も相続税の課税対象になる可能性があります。
生前贈与をするなら早めに!「不動産小口化商品」が有効な選択肢
税制改正大綱に、相続税と贈与税の一体化を本格的に検討すると明記されているため、生前贈与での相続対策は、数年以内にやりにくくなると考えたほうが賢明でしょう。相続対策として暦年贈与を考えているのであれば、今すぐにでも行動に移すことをおすすめします。
金融商品の「不動産小口化商品」であれば、現金よりも多くの資産を贈与できる可能性があります。不動産小口化商品は、マンションや商業施設などの不動産が小口化されて販売される金融商品であり、1口あたり数万〜1,000万円程度で購入が可能です。
不動産小口化商品のうち「任意組合型」と呼ばれるタイプは、相続税や贈与税を計算する際に、現物の不動産と同じく以下の方法で評価額が計算されます。
● 土地部分の評価額:時価の8割程度である「路線価」をもとに評価
● 建物部分の評価額:時価の7割程度である「固定資産税評価額」をもとに評価
またマンションやアパートなど賃貸用の不動産は、土地や建物の評価額を計算する際にさらに一定割合が減額されます。そのため額面通りで評価される現金よりも、任意組合型の不動産小口化商品のほうが、短期間でより多くの資産を贈与することが可能なのです。
限られた期間で、少しでも多くの資産を贈与したいのであれば、不動産小口化商品の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
令和4年度税制改正大綱で「住宅取得等資金の贈与税の非課税措置」が改正
令和4年度の税制改正大綱では、贈与税の非課税措置の一種である「住宅取得等資金の贈与税の非課税措置」が改正となりました。住宅取得等資金の贈与税の非課税措置は、子どもや孫が自ら住むための物件を新築したり購入したりするときに、一定額までの贈与が非課税となる制度です。
具体的には、非課税措置を適用できる期限が、2021年(令和3年)12月31日から2023年(令和5年)12月31日へと2年間延長されています。また、2022年(令和4年)1月1日以降の非課税となる贈与額は、以下の通り取得する住宅の種類によって決まります。
● 耐震、省エネまたはバリアフリーの住宅用家屋:1,000万円
● 上記以外の住宅用家屋:500万円
2021年(令和3年)12月31日までは最高1,500万円までの贈与が非課税でした。そのため改正によって、非課税枠は縮小されています。
一方で緩和された要件もあります。改正前は、築20年以内(マンションをはじめとした耐火建築物は25年以内)の中古住宅でなければ、非課税措置を適用できませんでした。それが改正後は、築年数を問われなくなっています。
まとめ
令和4年度税制改正大綱で、相続税と贈与税の一体化について具体的な改正案は示されなかったものの、引き続き本格的に検討されることが明記されました。早ければ、2022年12月に発表される令和5年度の税制改正大綱で、相続税と贈与税の一体化に向けた改正内容が発表されるでしょう。
とはいえ、いきなり相続税と贈与税が一体化する可能性は低いでしょう。「暦年課税を存続させて、相続税開始前の3年以内加算ルールを10年以内や15年以内などに延長する」または「暦年課税を廃止して、相続時精算課税制度に統一する」のどちらかが実施されると考えられます。
相続対策としての生前贈与は、近い将来にできなくなるでしょう。生前贈与を検討している方は、早めに相続税専門の税理士に相談するのがおすすめです。