#39 手を打っておいてよかった!相続対策「ビフォーアフター」

2021.06.18

2015年から課税対象が拡大して以来、多くの人々にとって他人事でなくなっているのが相続税の問題です。「そろそろ相続対策を進めておかないと…」と思いつつも、具体的にどのような手を打てばどういった効果を期待できるのかがピンとこない人も多いのではないでしょうか?

そこで、とある家庭をモデルケースに、相続対策の「ビフォーアフター(対策前と対策後)」の状況について比較してみることにしましょう。

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相続対策【ビフォー(対策前)】

東京都内に住むAさんはすでに夫に先立たれていますが、すでに独立して別居している3人の子どもがおり、実勢価格2億円の自宅と3億円の預貯金を保有しています。もしも、現状における家族・資産の構成でAさんに万一のことがあり、相続が発生したとしたらどうなるでしょうか?

Aさんが遺した資産の評価は、税制上のルールに則って行われることになります。その際、3億円の預貯金は額面通りの評価となりますが、不動産は実勢価格よりも割り引かれて評価されます。

不動産は預貯金などと比べて換金性が低いことを配慮し、土地は実勢価格(地価公示価格)の8割程度に相当する「路線価」で評価します。そして、自宅に用いている建物の評価額は建築費の6割程度に相当する「固定資産評価額」と同等とみなされるのです。

したがって、Aさんの自宅敷地が実勢価格1億6000万円、建築費が4000万円だったとすると、その相続税評価額は「1億2800万円+2400万円=1億5200万円」になると目されます。3億円の預貯金と合計すれば、4億5200万円の相続財産とみなされるわけです。

話が複雑になるので詳しくは触れませんが、3人の子どものいずれかがAさんと同居していたら「小規模宅地等の特例」を適用できた可能性もあります。所定の条件を満たせば自宅の「相続税評価額」を80%減額できるという措置ですが、別居していたのでこのケースでは対象となりません。

話を元に戻しましょう。相続税には「3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 」という「基礎控除」が設けられており、Aさんのケースでは「3000万円+600万円×3=4800万円」を差し引いた4億400万円が課税対象となります。上記の不動産の評価による資産圧縮を織り込んだとしても、仮に3人の子どもが均等な割合で相続した場合、1人当たりの相続財産は約1億5067万円で、1人当たりの相続税負担は約3687万円に達します。

 

相続税負担で1億円超が消える!?

つまり、相続に伴う納税によって約1億1000万円に上る資産が失われてしまったのです。ここまでの納税額に及んだのは、預貯金の相続財産がかなりの割合を占めていたことが影響しています。

また、実勢価格で2億円の自宅、税引き前で3億円の預貯金という内訳の相続財産を3人で均等に分けるのは現実的に困難であることも確かでしょう。1人が自宅、2人が預貯金を均等に分けるという手も考えられますが、実際の資産価値や税引き後の取り分に不公平感がうかがえます。

結局、相続が発生する前にAさんが進めておくべき対策は、預貯金のウエートを減らして相続税評価額を大きく下げられる資産にシフトさせることと、3人の子どもたちができるだけ公平に分けられる構成に変えておくことなのです。では、具体的にどうするのが得策なのかについて、次で詳しく考えてみることにします。

 

相続対策【アフター(対策後)】

このままでは大変なことになると気づいたAさんが専門家のアドバイスに従い、3億円の預貯金と自宅を担保に調達した2億円の融資を元手に資産の組み替えを行ったとしたら、果たしてどうなるでしょうか? 具体的にAさんが選択したのは、賃貸マンション兼自宅(賃貸併用住宅)への建替と2億円の賃貸マンション2棟を取得するというプランです。

まず、自宅と2棟のマンションという不動産が相続財産となるので、対策前と比べて3人の子どもたちへの分与が容易で、相続税負担の軽減にもつながることが想像できるでしょう。しかも、賃貸不動産は節税効果がいっそう高くなります。

建物部分の評価が「自宅として用いている家屋の相続税評価額×70%」となることがその理由の一つです。加えて、自宅として使用している土地でも地価公示価格の2割減である「路線価」が適用されますが、賃貸に充てていればさらに約2割減となります。

したがって、2人の子どもが相続する2億円の賃貸マンションの敷地がともに実勢価格1億6000万円、建築費が4000万円だったとすると、その相続税評価額は「1億240万円+1680万円=1億1920万円」で、2棟分で2億3840万円となります。

 

一方、Aさんの住居となる賃貸併用住宅の建物に対する「相続税評価額」は、「固定資産評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)」という計算式で算出されます。「借家権割合」は全国一律30%で、Aさんの賃貸併用住宅における「賃貸割合(賃貸に回している比率)」が80%だったとすれば、建物の評価は「固定資産評価額」の76%です。

「固定資産評価額」は建築費の6割程度であり、賃貸併用住宅を5000万円で建てたとすれば、その「相続税評価額」は「5000万円×60%×76%=2280万円」となります。そして、賃貸併用住宅に用いている土地については自宅の更地の評価額から一定割合減額されるので、「1億2800万円×1-(70%×30%×80%)=約1億650万円」と想定されます。

したがって、「相続税評価額」の合計は「2億3840万円+1億2930万円=3億6770万円」となり、これから4800万円の「基礎控除」と2億円の融資残高を差し引いた1億1970万円に相続税が課されます。その結果、3人の子どもたちの税負担はそれぞれ300万円程度となって、対策前のケースと比べて10分の1以下に軽減されました。

 

まとめ

Aさんのケースでは、対策前と対策後で3人の子どもが負担する相続税が7分の1以下にまで軽減されました。しかも、3人とも継続的な家賃収入を期待できる資産を相続できるので、今やほとんど利息を生まない預貯金を譲り受けるよりもはるかに実り多いと言えるでしょう。

 

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